「女帝 わが名は則天武后」 山颯(シャンサ)

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★★ 草思社
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中国系フランス人の作家らしいです。

則天武后という人、唐代初期の有名な「悪女」ですが、その評価は定まっていない。なにしろ中国で初めての女帝です。当然ながら後世の風当たりはべらぼうに強い。できの悪い息子たちを次々と処分して、えーい面倒だってんで自分が皇帝になってしまった。おまけに唐を廃止して新しい王朝まで開いてしまった。ま、本人が死んだ後は、そんなことはなかったことにされたようです。ちなみに武后の孫が玄宗です。

この人、科挙の仕組みを軌道に乗せたことでも知られています。有力貴族に支配されていた官僚制度に新風をふきこんだ。本人がそもそも貴族の娘ではなく、しがない平民というか、地方官の子供だったことも影響したかもしれないです。

とにかく革新的で、有能果敢。新しい政治をガンガン進めた。何かの歴史書では、彼女の政治は非常に有効だったと評価されていました。念願だった高句麗も征伐。常に弊害の多かった外戚制度も押さえたようです。自分の実家の家系ですから、本当は不利になるんですが、たぶん自信があったんでしょう。それだけ強烈な権力を握っていた。

皇后になって最初のうちはだらしない亭主の代わりとして、御簾の陰に座っていたんですが、そのうち面倒になって顔をさらすようになった。もちろん反対勢力も多かったですが、容赦なく弾圧、断行。バッサバッサと斬っていったら、あらら、息子も親戚も、ほとんどいなくなってしまった。寂しいけど、ま、いいか。

小説はちょっとファンタスティックな文体の一人称で叙述されます。幼女時代、後宮での生活、やがてまだ若かった王子(高宗)の目にとまり、のし上がってついには皇后。そして出来の悪い息子たちをしりぞけて女帝。歳をとり、だんだんワンマンになってお気に入りを可愛がりだす。バカなことやってるのは承知だけど、それくらい許してよ。いいじゃないの。最後の最後はまさかの宮中クーデタ。強請されて廃位の書面にサインしますが、本音としてはもうどうでもいい。ワタシ、疲れたの。やれやれ。