「戦火の果て」デイヴィッド・L・ロビンズ

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★★★ 新潮文庫

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デイヴィッド・L・ロビンズは「鼠たちの戦争」の作者です。鼠たちの戦争はスターリングラード攻防を舞台に、独ソ狙撃兵の対決を描いたもので、なかなかいい本でした。ちなみにスターリングラードってのはヴォルガ川西岸にある工業都市。大きな都市みたいですが、実際にはたいしたことはなかったらしい。日本だったら川崎とか広島とか、ま、実際の人口は違うでしょうが、そんな印象です。たまたま攻防の鍵となる長期の戦いの舞台になって、有名になった。

で、戦火の果て。こっちは1945年のベルリン戦が舞台です。優勢になったソ連軍はべらぼうな大軍でポーランドを西に侵攻する。米英連合軍も西からライン川を渡る。どっちが先にベルリンを制圧するか。手に汗握るレースです・・・・。

しかし現実は違いました。「パリは燃えているか」でもそうでしたが、こうした巨大都市を制圧するのは非常にリスクがある。市街戦になれば、大量の損失を覚悟しないといけません。そんな膨大な死傷者を出してまで、真っ先にベルリンを制圧する必要があるか。軍事的、合理的に考えるとかなり疑問です。

ということで、フランクリン・ルーズベルトはベルリン後回しを決断する。ベルリン一番乗りすると、スターリンの機嫌をそこねることは間違いないし、終戦の後では国際連合にソ連を協力させないといけない。ルーズベルトは国際連合に過大な夢を持っていたんですね。この点では第一次対戦時のウイルソン大統領に似ています。ある意味、理想主義者。悪くいうとヨーロッパふうの世知辛い政治駆け引きに無縁。甘い。

チャーチルは猛反対です。ぜひともまっすぐベルリンを目指したい。これは軍事的というより政治的な意味合いが大きい。首都陥落ってのは、イメージ的にべらぼうな意味があるんです。おまけに、もしスターリンがベルリン占領なんかしたら、いい気になってドイツの東半分を自分のものにしてしまいそうです。ルーズベルトと違ってチャーチルはスターリンをまったく信用していない。あいつは厚顔無恥の嘘つきだ。

ただし。残念なことに連合軍の主体は米軍です。英軍はモンゴメリーをなんとかヒーローにしようとしているけど、そもそも兵隊の数が足りない。うかつに行動してルーズベルトやアイクの機嫌をそこねると、ややこしいことになる。ジレンマ。そう、政治は妥協です。

もちろんスターリンはベルリン進撃を最優先です。ベルリンに興味ないよと嘘つくことも辞さない。

ということで、語り手はルーズベルト、チャーチル、スターリン、そしてライフ誌の契約カメラマン、赤軍懲罰大隊の兵士。ベルリンフィルでチェロを引いている若い女性。結末は読んでのお楽しみ。ん、あんまり楽しくもない結末かな。


たまたま「太平洋の試練」と同時進行で読んでしまったので、実はイメージがグチャグチャです。「太平洋の試練」は初期の太平洋戦争。「戦火の果て」は末期のヨーロッパ戦線。どっちもルーズベルトとチャーチルが登場して派手に動き回るので、かなり混乱しそうです。