「忘れられた日本人」宮本常一

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★★★★ 岩波文庫
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この人の著書は初めてです。なんか民俗学では知られた人らしいですね。知らんかった。

戦前から戦後、主として西日本の農村での聞き書きです。戦後といっても浅くて、たぶん昭和25年あたり。日本が大きく変容する前の時代です。偉い柳田國男とはまた違って、もっと農民に寄り添って話を聞いている。話し手も知識階級ではなく、庶民、常民。たいていは読み書きもできない人たちです。

文章が非常に良質です。たぶんメモなんかしないでひたすら話を聞き、あとで再構成したものなんでしょう。宮本常一という人を濾過して書き出された古い農民の日常の暮らしや生活。

地主とか村役人とか、命令系統によって構成された社会ではない。ある意味、全員が平等。全員に発言権がある。著者は西日本と東日本ではシステムが異なっているのではないかと示唆していますが、うん、それももっともらしい。西日本では大きな地主のいない均質な村民集団が多かったという。

いろいろな老人が登場します。博労として生きて乞食になった老人の語る色遍歴「土佐源氏」はもちろん良かったですが、それよりも最初のほうに出てくる村の寄り合いが面白かった。

何かテーマがあると集まって、2日でも3日でも話しあう。論議するんじゃなくて、ひたすらダラダラと、話も飛び飛びに話すんですね。話しているうちに、効率は悪いようでも時間をかければ、決めるべき大切なことなら自然に結論らしきもの出る。そうやって決まったことには、誰も異議をはさまない。指示されたわけではなくみんな自分たちで決めたことです。

非常に楽しめる本でした。また機会があったら他のものも読んでみようと思います。