これも中村文則。わりあい新しい本のようです。
けっこう楽しめる本です。ハードボイルドふうのタッチで、孤独なスリ稼業の男を描く。信条として金持ちからしか盗らない。人差指と中指の芸術。しょっちゅう指を湿らせるために専用のハンカチも持っている。このへんは深いです。
ハードボイルドの宿命として、よせばいいのに近所の惨めな母子に注目してしまう。母はクスリに漬かった売春婦。子供はまだ幼い。典型的なパターンで、子供は放置されて汚くてしょっちゅう殴られている。母親に指令されてスーパーで稚拙な万引をしている。豚肉300gとタマネギとか、万引きリストを持ってスーパーをうろうしている。これじゃすぐつかまるのは目に見えている。
で、きまぐれな交流。子供はスリ男の手練をみて、英雄のように憧れる。自分もそういう男になりたい。このへんはちょっと泣ける部分です。
このままスリ男が美学つらぬいてかっこよく暮らしていければそれもまた悪くないんですが、ま、小説ですからお決まりで、破滅に向かう。ん、本当に破滅なのかな。それともまだ希望は残っているのか。そのへんを微妙に結末となっていきます。
いい本でした。