日本を脱出した(つもりの)女が南洋の島バヌアツで暮らしている。遠い日本で発生した大津波は半日かけて太平洋を渡りこの島に押し寄せる。やがて原発事故のニュースも伝わってくる。
そして福島に近い実家から父の訃報がとどく。久しぶりの帰郷。女は残留放射線に怯えるが、周囲の人たちはみんな能天気だ。だれも気にしていない。感覚の段差。すぐにもバヌアツへ帰る予定だった女だが、口内炎の治療で訪れた歯科医に県立病院を紹介され、病院の医師は舌癌を宣告する。
このへんまでは私小説の匂いで進んでいるんですが、いかにも坂東眞砂子ふうに「アオイロコ」なる奇病の噂が登場する。皮膚が青いウロコのようになって、体の細胞が壊れ、精気がなくなって死ぬ。そんな奇病がほんとうやらどうやら、少しずつ伝奇的な雰囲気になってきます。
この小説が坂東眞砂子の絶筆だったんですね。読むまで知りませんでした。小説の主人公が舌癌で入院したところで途切れていますが、坂東眞砂子自身、舌癌だったらしい。手術後の転移で郷里の高知に帰り、そこで亡くなった。限りなく自分自身を投影した作品だったんだ。
猫のことなんかどうでもいいんで、もう少し長生きして書いてもらいたかった作家です。彼女の小説はほとんど読んでいると思います。