熊谷達也という作家、まったく知りませんでした。直木賞と山本周五郎賞の同時受賞だったらしい。だけど本は売れない。たまたまネットで評判を知り、読んでみようかと思った次第です。
森三部作(マタギ三部作)とかいうらしく、その二作目。一作目の「邂逅の森」から読んだほうがいいんでしょうけど、あいにく貸し出し中だった。ま、続き物ではないようなので、こちらから。
マタギのお話です。新潟・山形の県境あたりは(あんまり有名ではないけど)日本有数の山地です。飯豊・朝日連峰。その山の麓にへばりついている小さなマタギ村。ただしこのご時世、専業なんて無理なのでこじんまりと農業やったり土木事務所に勤めたり。ときどき集まって山に入る。
今では勝手に熊を撃つわけにはいきません。冬の間だけは撃てるけど、その時期の熊は穴に籠もっているんで、めったに殺せない。夏になると里に降りてきて住民から害獣駆除要請がきますが、これもしっかり行政の許可が必要です。そもそも夏熊は肉がなくて胆嚢も小さい。マタギ連中としては気が乗らない。
行政にとっても熊は困る。住民が襲われれば大問題だし、かといってどんどん殺すと保護団体からクレームが殺到する。可哀相な熊をなんで殺すの。担当者(役場の課長あたり)は胃が痛いです。
小説では捕獲した熊にチップを埋めこんで、ついでに強烈スプレーで「お仕置き」をして森に帰す運動をしているNPOも登場します。この運動の方向が正しいかどうかについては、作者も口を濁しています。やらないよりはマシだろうけど、効果はどうだろう。おまけに費用もけっこうかかるし。
ま、なんやかんやで正義感に燃えた都会の女性ライター(もちろん美人)が動物カメラマン(もちろんカッコいい)や若いマタギ棟梁とかかわり、冬の熊狩りに参加。てんやわんやの末に一頭しとめて熊鍋を食します。美味しいんだそうです。純粋に肉が美味というより、いろいろなプラスアルファがあって味が濃い。嫌われ者のマタギたちにちょっと共感したあたりでジ・エンド。
なかなか面白い本でした。さして理由はないですが、実はマタギもの、けっこう好きです。都会暮らしの人間の憧れですね。もちろん自分が実際に冬山に分け入るだなんてとんでもない。本で読んでひそかに共感するだけ。