どこかのサイトで褒めている人がいたので、気になって借出し。
なるほど、紀伊半島東南の端っこ近く、太地の鯨漁のお話ですね。それまではごく小さなクジラしか上げることができなかったんですが、江戸時代に巨大なクジラも獲れる網漁を考え出した。発明した網元はもちろん大金持ちになった。江戸時代初期の頃、大きな鯨の平均価格が75両とありました。太地で多い年は70頭以上もとれたらしい。すごい額です。小さな藩なんかモノともしない。ほぼ独立領。
もちろん何十メートルもあるクジラを上げるには、少しくらいの人数では無理です。高台で見張り専門にあたる人、見つかったら舟を押し出して、網を張る舟、群がって銛を打つ舟、弱ったところで鼻先に穴をあけて曳航する舟。浜にあがったらすぐ処理しなければらない。なんやかんやで、千人以上の人手が必要になる。完全分業流れ作業ですね。したがって各部門の作業ルールも非常に厳密で、小規模な軍隊のような組織になる。
銛を打つにしても、ただ打ったんじゃいけない。最初は小さな銛で弱らせて、それからだんだん大きな銛にする。いきなりガツンとやるとクジラが必死に暴れるらしい。またザトウクジラは太っていて脂が多いとか、ナガスクジラは大きくて強いのでなるべく避けるとか、うんちくはけっこう楽しいです。
で、時代は江戸時代から明治にかけて、その太地に暮らす漁師たちをテーマにした短編集です。だんだんクジラが来なくなって(たぶん「白鯨」で描かれるアメリカ捕鯨船の影響)、資本力を誇った網元もついに倒産。太地の沿岸捕鯨は終了します。
このテーマ、たしか宇能鴻一郎も書いていました。えーと、「鯨神」だったか。ストーリーはまったく覚えていませんが、かなり良質の小説だったはずです。これで芥川賞か直木賞をとったんじゃなかったっけ。その後、なんで宇能鴻一郎は官能小説しか書かなくなったのか。不思議。
今回の伊東潤「巨鯨の海」も面白いですが、うーん、傑作とまでは言えない印象。ストーリーはそれぞれ違うものの同じようなテーストの短編が続くんで、後半になると少し飽きてきます。