熊谷達也のマタギもの代表作(たぶん)。大盤振る舞いで星4としましたが、本当は星3.6とか3.7くらいかな。今年は4つ星が払底しているので、エイ!とオマケです。
この本は力が入っています。破綻が非常に少ない。直木賞と山本周五郎賞の両方をとったのも納得です。秋田阿仁の若いマタギがだんだん猟を覚え、知り合った地主の娘に夜這いをかけ、妊娠させたのが原因で村を追い出される。行った先は鉱山。当時の鉱夫たちの生態は面白かったですね。単なる労働者ではなく親分子分の関係です。江戸時代からの古い風習が残っていたらしい。ヤクザとか香具師なんかと雰囲気が似ている。 (「友子」制度というらしい。一種の職能伝授・互助組織)
で、景気のよかった炭鉱も火が消え、主人公はまたマタギに戻ります。いろいろあった末に女房ももらって、年を少しとって、いよいよ山の主と最後の対決。マタギの間では決して獲ってはいけない熊がいたんだそうです。月の輪のない黒熊(ミナグロ)、白い熊(ミナシロ)、山の主である巨熊(コブグマ)。これらは禁忌です。うっかりミナグロを獲ったマタギは廃業しなければらない。コブグマに立ち向かえば殺されてしまう。そのコブグマを相手にしてしまう。
主人公は射撃の名手でさっそうとしているけど完璧な男ではなく、気負いもあるし女も好き。理性では損と思ってもつい走ってしまうところもある。わりあい常人に描かれているのが好感です。