昔、なんかの文章を読んで池部良ってのは上手だなあと思った記憶あり。たくさん書いてるようですが、本書はたぶん最晩年の頃のエッセイ集です。冒頭、卒寿の話があるので、89歳くらいからかな。
あいかわらず軽妙で味があります。ただお歳のせいかな、所々に意味不明瞭の部分もあり。冗長を削って削っていったら、ちょっと削りすぎた。でも本人としては「これでも通じるだろ」と思ってるような雰囲気です。よくいえば、それも味のうち。
戦前に俳優デビューしてるんですね。立教を出て助監督になるつもりが、見込まれてちょっと俳優をやった。すぐ出征で、兵隊として短期に除隊する予定だったのに(もちろん散々殴られた)幹候試験を受けさせられた。将校になると任期が長くなるので嫌だったようにも書いてありますが、ま、受けろと言われたら従うしかないでしょうね。
で、見習士官として北支から輸送船に乗せられ、フィリピンの港を出たところで潜水艦にやられて海上を漂い、救われたと思ったらそのまま南方へ。赴任の島はいいところだったようですが、事情があって小隊をひきいる羽目になる。そのうち米軍の爆撃が激しくなりジャングルに逃げ込む。喰えるものはなんでも食ってヒョロヒョロになって生き延びていたら終戦。終戦ったって、すぐには帰れません。復員が昭和21年かな。
たいへんな人生です。もちろん大森の家は焼けているし、仕事もない。おまけに病気で2カ月ほど倒れた。そこへ市川崑と高峰秀子が「俳優として戻れ」と誘いにくる。あてもないんで「はい、やります」と返事。こうして日本人離れしたスタイルの二枚目俳優が誕生。いまどきなら珍しくないですが、なんせ大正生まれですからね。べらぼうにモテたらしい。
この本に収録のエッセイの中身はバラバラ。江戸っ子である父の話。子供時代のこと。売れっ子俳優時代。食べ物の話。いろいろです。