先日読んだ「聖書の絵師」。小説の中でとある貴婦人が可愛がっていたユダヤ少女の遺骸を清拭するシーンがあります。ユダヤ女の体には印があり、性器の形が常人とは違う。本当だろうか・・というあたり。無知な農民ではなく、当時としてはいちおう教養ををもった階級です。それでも半信半疑ながら、こうした偏見を持っていた。
ま、中世を舞台にした小説なんかではこの種の偏見は常識です。でも,それにしても何故ユダヤ人は偏見と迫害の対象となっていたのか。
ま、迫害の対象となっていたから各地に分散ししてゲットーを作り、まともな商売ができないから金融なんかに特化した。特化したから更に嫌われて、いっそう迫害される。迫害されるから貝のようにかたくなに身構える。その姿勢が気に食わない・・・こうした悪循環は理解できます。
でも、そもそも何故なのか。よく聞くのは「キリストを十字にかけたのはユダヤ人」という話。「私は手を洗うぞ」と総督ピラトが宣言して責任転嫁したことになってますが、実際に命令を下して処刑したのはローマ人だし、イエス本人はユダヤ人です。マリアだって使徒たちだってユダヤ人。それにペテロなんかがあちこちで布教していた時代には、こうした偏見や迫害はとくになかったはずです。なんか理屈がスッキリ賦に落ちません。
なんでだろ。
自分なりに考えてみました。もちろん知識がないのでネットでも検索。で、直接の原因となったのは紀元1世紀のユダヤ戦争でしょうかね。とかくローマに従順ではなかったユダヤ(だからローマ総督も多少は遠慮していた) がついに大反乱をおこし、徹底的に弾圧される。エレサレムは陥落。しかもその後、ハドリアヌス帝の時代(2世紀)にもう一度あって、この時にハドリアヌスは「ユダヤ文化」に原因があると結論をくだした。ユダヤ根絶。
ローマには神様がたくさんいます。ユダヤの神様が一人くらい増えてもかまわないんですが、ユダヤ人たちは納得しない。過酷な沙漠でうまれた一神教民族は頑固なんです。というより、これを心の支えにして生きるしかないというべきなのかな。可哀相だから首都を再建してやろうと考えた(本人的には親切な)ハドリアヌスだったんですが、邪教のユビテル神殿を造るとかいう計画が漏れてユダヤ人が激昂する。親切が仇になった。
で、怒った(たぶん)ハドリアヌスはユダヤ教とその文化を完全かつ徹底的に弾圧。この時点で多くのユダヤ人は各地に離散したんだと思います。
こうして離散した場合、ほとんどの民族は歴史のなかに吸収され、やがて消滅します。それが、ま、常識。しかし何故かユダヤ人だけはアイデンティティを失わなかった。「神の選民」意識ですか。聖書(もちろん旧約)の存在というのが大きかったんでしょうね。書物だけなら焼けたり虫が食ったり消えたりするはずですが、彼らには「暗記」という特技があった。最初から最後まで頭を振り振り丸暗記してしまう。金品や書物を奪うことはできても、頭の中の知識に手をつけることはできない。
こうして周囲と馴染まず頑固に一人の神を信仰する独自文化の民族が誕生。馴染まない連中はふつう嫌われます。嫌われたから教会が蔑視する金融業にいったのか、金融業で成功したから嫌われたのか、そのへんは不明。で、キリスト教がローマの国教になると「キリストの敵だから苛めてもいいんだ」という風潮が生まれたし、苛められるからどんどん孤立してもっと頑固になる。
(そもそもを言えば、神殿の両替商の出店を壊してしまうイエスが乱暴だった。ま、洋の東西をとわず清廉な人は「金なんて汚らわしい」とか言うことが多いですね。イスラムも利子をとる金貸しを禁じています。言い分はわかるけど、いったん貨幣経済が誕生してしまうともう後戻りはできない)
それはともかく。各地に分散したユダヤ人は孤立せず、おたがいに助け合います。強力なユダヤ人ネットワーク。手形取引です。金銀財宝は強奪される危険があるけど、手形なら比較的安全。信用商売ですね。保険制度もあったらしい。これが大成功の秘訣で「商売上手のユダヤ人」となった。
この後の推移は、ま、たいていの人が知っていると思います。
ユダヤ人問題の原因
(1) バビロン捕囚の後、民族の拠り所として「聖書」を編纂。これで強固な民族アイディンティティが確立。別に悪くはないんだけど、すべての遠因はここに発するような気がする
(2) 何回もローマに無謀な反乱をくわだてた当時のユダヤ人過激派と民衆
(3) ハドリアヌスが善意を無視されて怒り狂い、ユダヤ国家を抹殺したこと
(4) お金や金融を蔑視したイエスと、その教えを(タテマエ上は)踏襲した教会
(5) ついでに。民衆を無知なままに置こうとした教会の大方針
(6) 格好のスケープゴートとしてユダヤ人を迫害させた教会、王権、政府
(7) 煽動に乗せられ、ユダヤ人苛めの憂さばらしに走った無知な民衆・国民たち
(8) 本人は悪くないけど、どんどん金持ちになって力をたくわえた各国のユダヤ人
要するに非常に堅固な独自文化を守旧してきた民族が、不幸なことに自分の国家を持てなかった。逆にいえば、国家をもたないのに信仰と文化を守り続けてきた民族がいた。レアなケースなんでしょうね、きっと。ということで以下・・・。
(9) 嘘八百こいてイスラエル建国を約束した英国とフランスの二枚舌
(10) 強引な建国によって、アラブ(イスラム)とイスラエルに対立が発生
(11) 実力も考えず能天気に新生イスラエルを攻めたアラブ諸国。もちろん敗退
(12) 安全保障のためヤマアラシのように針を逆立てるイスラエル。米国からは強力なサポート。これでパレスチナとの平和共存が不可能になった
こうして現在もなおパレスチナ問題は継続中。根がべらぼうに深い。違いはありますが、クルド人も同じようなものかな。強固な民族なのに国家を持てない。たしかトルコは公式見解として「クルド人問題というものは存在しない」というタテマエです。トルコ国内にクルド人なんていない。みんなトルコ国民。