副題は「アメリカは中国の挑戦に打ち勝てるか」。著者は英フィナンシャル・タイムズの記者らしいです。
ま、テーマはタイトル通りで、これから米中の関係がどうなるのかの分析です。しかし読みすすむにつれて中国は大変だなあ・・と思います。希望はあるけど前途多難。
中国が何か対外的な行動をとるとき、常に問題になるのが「弱い指導者、強い派閥。弱い政府、強い利益集団。弱い党、強い国」です。要するに決められない。鄧小平が死んでから中国は集団指導制になったといわれますが、言葉を変えると政権が非常に不安定である。派閥が強い力をもち、その意向に逆らうのは危険。派閥っのては、違う言い方をすると利益集団ですね。
そういう弱みを抱えているのに「国家」としては米国に迫る実力を持ってしまった。世界のG2として行動したい気持ちはあるが、周囲がすんなりと認めてくれない。そもそも一党独裁なのに資本主義国家になろうとしているのが矛盾ではあるんですけど。国家主導の資本主義経営ってのは、たいてい失敗します。
そうそう。今の中国は19世紀の米国のモンロー主義をなぞっているという指摘は面白かったです。モンロー主義、なんとなく「米国の孤立主義」みたいな印象がありますが、実際には「アメリカ大陸に手を出すなよ。こっちも欧州大陸には手を出さない」という主張です。米国だけでなく、アメリカ大陸をそっくり囲ってしまう考え方。
そうなると中国の「ハワイより東は米国、西は中国。それぞれの庭として分け合おうぜ」という主張は非常にもっともです。西太平洋は中国のテリトリー。世界を征服する野望なんかないよ、西太平洋だけでいいんだ。
問題は、大統領ジェームズ・モンローの当時、南北アメリカ大陸で「大反対!」という声があがらなかったことでしょう。ま、それもいいんじゃないの。ヨーロッパの連中よりは米国のほうが信用できるもんな。
そこが現代との相違です。大中国がいわば「大東亜共栄圏」の理想をかかげても、周囲の国がみんな嫌な顔をする。みんな中国とケンカをする気はない(この点で米国の思惑とは違う)。でも中国の言いなりになる気もない(この点で中国の思惑が狂う)。
中国の基本的な方針は「非対称戦」だそうです。米国と正面きってドンパチやったら負ける可能性が高い。しかし中国近海に攻めてくるんなら、いくらでも叩ける。来るなよ、来たら叩くぞ、という戦い。この範囲の戦いでなら中国はけっして弱くないらしい。具体的には日本とかフィリピン、ベトナムあたりのラインを想定しているんでしょうか。
しかし、今の中国にとってタンカーによる石油の輸入は生命線です。そのためたとえばミャンマーに大きな港を作ろうとしている。うまくすれば、この港から中国南西部まで延々とパイプラインを直接ひけるかもしれない。これが成功すればマラッカ海峡とか、狭くてややこしいルートを気にしないですむ。すばらしい。
しかしその代償として、今度は石油搬入の港を防衛する必要が出てくるでしょう。軍港化です。また脆弱なパイプライを防衛するため部隊を駐屯させる必要も出てくる。「世界に進出する意図はない」と主張しているのに本土から遠く離れた地点を防衛するというのは、中国モンロー主義からすると、どうも違和感がある。おまけに遠隔地では得意の非対称戦も無理。矛盾ですね。これを解決しようとすると、米国のように金食い虫の空母打撃群を遊弋させなければならない。
はい。中国は矛盾だらけ。人口13億の強大な力を持ってはいるんですが、内部に矛盾がたっぷりある。おまけに周囲が尊敬してくれない。不満です。米国と戦う気は毛頭ないけれど、しかし軍備は増強しなければならない。しかし中央の言うことに軍はしたがわない。民衆は勝手なことを主張する。
著者の見解としては、まだ当分の間、米国の天下は続く。矛盾を内蔵した中国は前途多難。