「写楽 閉じた国の幻」島田荘司

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★★★ 新潮社
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写楽とは何者だったのか。諸説いろいろあります。なにしろ活躍時期がべらぼうに短くて、おまけに個人情報がゼロ。おまけに画風は他の浮世絵とまったく違う。下手なのか上手なのかも実はさだかではない。全身デッサンは酷いとかいう話もありますね。

ということで、小説じたてで写楽の正体の新説です。著者は推理小説のけっこう有名な人らしい。あいにく一冊も読んだことはないですが。

で、ここで提唱の写楽の正体。有力といわれる斎藤十郎兵衛説を排したものですが、では完全な新説なのか、実は前から言われていたものなのかは不明。少なくとも自分は知りませんでした。しかしこの新説、けっこう納得できる。「写楽探し」のストーリーとしてはなかなか面白かったです。

ただし小説としては、はてどうか。冒頭の事件とか、回転ドアの話とか鬼嫁のこととか、あるいは美人教授とか。いったい何を訴えたいのか意味不明。最後のほうでも、ここでなぜこの人物が眉をひそめたのか、なぜ冷たい顔をしたのか、などなどが消化不良です。書いてみたかったから書いた? まるでチャンドラーの推理小説みたいだ。チャンドラーじゃ褒めすぎか。

中身は現代と寛政6年で進行します。現代は落ち目の北斎研究家が主役。イジイジと謎の解明につとめます。寛政年間のほうは版元の蔦屋重三郎が主役で、蔦屋と悪仲間連中とのいかにも江戸っ子ふうの会話で進む。この会話、軽くポンポンと落語ふうキャッチボールで最初は面白いんですが、だんだん飽きてきますね。要するに島田荘司という作家、達者なんだか下手なんだか見当がつかない。

ただし写楽研究はずいぶん真剣にやったらしいことは伺えます。