★★ 幻冬舎
工藤美代子という著者名でつい借出し。なんか読ませる本を書いている人のような気がしていましたが、読み始めてみると、ん、違ったかな。誰と間違ったんだろ。ぼんやり思い浮かべていたのは「エリザベス 華麗なる孤独」の人のような気がしますが、これは石井美樹子。ふつう、間違えないよなあ。
ま、要するに岸信介伝です。いわゆる伝記もの。したがってだいたいは「ヨイショ!」です。ところどころ、ちょっとグレーなエピソードも交えていますが、ま、基本線は「こんな凄い奴だったんですよ」というスタンスです。おおむねそういう雰囲気。
東大時代の岸、もっと先鋭的な国粋主義者というイメージでしたが、この本ではそれほどでもない。ま、非常にクレバーで、その思想に魅力があっても危ないレベルまでは深入りしない。官僚になってからも満州で辣腕ふるったようですが、ここでも危ない証拠は残さない。
だいたいナマの金には手を出さない主義だったんだそうです。かならず濾過させてから手にする。だから戦後もきな臭い噂はたくさんあったけど、ついに尻尾を出さなかった。なんかの折りに田中角栄を評して「あいつは生の金袋に手をつっこむ。あれじゃ総理として失格だ」という趣旨のことを言っていたらしい。なるほど。
ま、あれやこれや、その人生は悪運に恵まれていた。危ない橋を何回も何回も渡ったけど、うまい具合に安全なほうにばかり転がった。必要とあれば平然と裏切る。辞任しろと言われれば黙っていないで相手と刺し違える。戦争中、東条内閣を解散させたのは岸のくそふんばりだったと知りました。死刑にも無期にもならず巣鴨を3年で生きて出所できたのも、その「功績?」のおかげだったのかもしれない。
そこそこ面白い本。読んで損にはなりません。