このまえの「大聖堂」に続いて村上春樹訳の短編衆。
雰囲気はまったく同じです。アル中と不和と離婚と暴力、ようするに人間が壊れていく姿を坦々と描きたいらしい。深みがあるとも言えるし、ちょっと冗長ともいえる。
初出のほとんどは当時の編集者によって大幅に原稿削除(ものによっては半分以上も)されていたとかで、そのへんもいろいろ後書きで書かれていますが、ま、さして興味なし。この版は原稿復活の完全版です。
ちなみにタイトル忘れましたが、誕生日ケーキの話は「大聖堂」とかぶっています。
個々のストーリーはともかく、中の一編、仲良し中年4人組が年に一回、数泊で釣りキャンプする話は面白かった。深い山の中へ行って、途中で車を置いて延々と歩き、渓流で釣りをして酒を飲んで釣りをして酒を飲む。すごい楽しみにしているわけです。
ところが渓流に裸の女の死体がひっかかっている。うーん、うーん困った・・・無視しよう。そのうち一人が(気をきかせて?)死体を川岸までひっぱってきて縛りつける。流れたらまずいと思ったんでしょう。ただしその死体に関しては見えないことにして、あいかわらず釣りをして酒を飲んで釣りをして過ごす。山を下りてからさすがに警察に電話をする。
連中、それが変だとはまったく考えていないわけです。生きてるんならともかく、死んでるんだ。どうしろっていうんだ。死体のために、せっかくの楽しみをやめるのか。
なんとなく納得できる論理でもあります。ただし、奥さんはそう感じない。そこから先はカーヴァー流の展開になるんですが。