子供の頃に読んだ冒険小説。ヨーロッパのどこかで暮らすクロマニヨンの話でしたが、その小説では近くの谷にゴリラみたいなのが住んでいる。ネアンデルタール人です。子供心に「そんなバカな」と思っていました。ネアンデルタールとクロマニヨンは完全に入れ代わったんであって、両方が同時代に共存するなんてありえない。まるで恐竜とホモサピエンスが一緒にいるようなもんだ。
ついでですが、なんかで金髪のクレオパトラを見ました(映画だったか小説だったかは記憶のかなた)。これも「アホか」と思ったわけです。クレオパトラはエジプト人じゃないか。黒髪に決まっている。
もちろんどっちも間違ってはいません。クレオパトラが金髪というのは少し怪しいですが、プトレマイオス朝はマケドニアの血筋です。たいていは黒っぽい髪色だったでしょうが、仮に明るい栗色があっても間違いではない。ひょっとしたらもっと明るい色の髪だってあったかもしれない。
また、ヨーロッパのネアンデルタールって、3万年くらい前まで生き残っていたらしい。3万年といったらごく最近ですね。決してクロマニヨン登場で一気に消えたわけではない。もしお互いが憎しみあい、争っていたならこんなに長いあいだ共存することは無理でしょうね。友好的だったか敬遠しあっていたかは不明ですが、とにかく棲み分けしていた、多分。
そう考えると、ネアンデルタールと現世人類(クロマニヨンはその一部)が交雑することがあっても不思議はない。説としては、性徴のあらわれる前のネアンデルタールは現世人類に似ていたともいいます。ネアンデルタールから見ると「子供っぽいやつだな」、現世人類からみると「ごっつい奴だな」程度。仲良くしたのか襲ったのかは知りませんが、ま、子供が生まれることもある。
ということで、現世人類のDNAにネアンデルタールのそれが残っている・・・と実証しようとした学者グループがいる。なんとなく名前だけは知っているマックスプランク研究所の連中で、さんざん苦労して小さなネアンデルタール人の骨からDNA配列を再現。現世人類のDNA配列の何パーセントだかはネアンデルタール由来であることを発表した。ただしアフリカの人類にはこれがほとんどないそうです。
そうした経緯や苦労やら自慢やらを延々と書き綴ったのがこの本です。たいして興奮するようなものではないし、どちらかというと退屈な内容です。ただ通して読んで理解したのは、DNA配列再現という作業がいかに大変なものかということ。最近やたら見聞きする「犯人のDNA」なんかは資料が新鮮なので割合スムーズらしいですが、何万年も前の骨から再現しようとすると、とにかくバクテリアや細菌やらが混じっていてグチャグチャになっている。そして必ず資料に触れた人間のDNAも混入している。空気中の雑菌も入る。
なんと言いましたか、少量の資料を入れてスイッチ押すとどんどん増殖してくれる機械があるらしいですね。前に福岡伸一の本でそのへんを理解したつもりだったんですが、もう思い出せない。えーと、ポリメラーゼ連鎖反応。PCR。たぶんこのPCRはどんどん進化して、なんか凄い金のかかる巨大なシステムになっているらしい。おまけに増殖してもエラーがやたら出るので、信頼性のある配列を決めるには膨大な数の再試行をする必要がある。このへん、適当に書いています。あんまり信用しないでください。よく理解できていないので。
それはともかく。ネアンデルタールの遺伝子が現世人類に紛れこんでいるということは、生まれた子供が現世人類の子供として育てられたということです。そして他の男とか女とかと一緒になって、また子供を生む。はて。
ネアンデルタールと現世人類が近くに住んでいたとした場合、すぐ思いつくのは現世人類の男がネアンデルタールの女を襲ったというケースです。これはいかにもありそうですが、しかしやがてネアンデルタール一族は死滅するので、遺伝子が残るはずがない。逆にネアンデルタールが現世人類の女を襲うとか、あるいは一緒に暮らすとかしないと無理です。一緒に暮らした場合は、妊娠した女が元の仲間のもとに戻る。あるいは子連れで帰ってくる。
なんか変だなあと思いますが、それを解決するのは「中東説」というものらしい。アフリカを出て中東付近をウロウロしていた頃の現世人類は、まだたいして知恵を持っていない。近くにいるネアンデルタールとどっちが優勢とはいえないような状態だった。
これなら同等で、お互いに遺伝子交換があっても不思議ではないです。で、その後の現世人類は(ネアンデルタール遺伝子をとりこんだまま)どんどん強くなって増え、薄まってきたアンデルタール遺伝子もある時点から平衡状態になり、やがて何万年かの後、ネアンデルタールを追いやる。あるいはネアンデルタールが自滅する。
なるほど。現世人類は武器を使えて賢い。ネアンデルタールは鈍臭くてアホ。そういう思い込みがあるうちは、ネアンデルタールDNA混入説は受け入れられないけど、同等と考えれば納得可能ですね。ちなみにネアンデルタールも現世人類も、どちらもホモサピエンスと称する説もあるらしいです。この場合、しいて分けるなら現世人類は新ホモサピエンス。