★★★ 講談社
岩井三四二は「光秀曜変」「あるじはXX」シリーズ、「三成の不思議なる条々」などを読みましたが、この「異国合戦」がいちばん生き生きと馴染んでいる印象です。
舞台は九州肥後と博多、鎌倉、高麗の開京(だったかな)、そして元の大都。九州の主人公は例によって「蒙古襲来絵詞」の竹崎季長です。季長しかいないのかという感じもありますが、ま、他の武将に比べて材料が多いんだから仕方ない。少なくともこの本では季長を英雄扱いしていないだけマシですか。いかにも当時の田舎御家人らしく、ひたすら土地がほしい、金がほしい。そのためには武功がほしいと野心に燃えている。そうした人物です。
で、鎌倉編は評定衆・御恩奉行の安達泰盛。季長が直訴した相手です。時宗を支えてそれなりに頑張っていましたが、この元寇の後の霜月騒動ではライバル平頼綱に滅ぼされる運命にあります。鎌倉時代って、ほんと陰謀と乱と粛清が多いですね。かなり陰惨。
ま、季長のような貧乏御家人からすると異国来襲は絶好のチャンスです。敵の大将首をとる。可能なら捕虜にする。それも無理なら先陣一番駆け。とにかく目立たなくてはいけない。焦り狂って戦います。で、恐かったけどなんとか必死に先陣駆けして、怪我をして、でもきちんと大将に申告して書類に記してもらったはずなのに、鎌倉に通達してもらえない。怒り狂います。
高麗を舞台としたパートの主役は高官・将軍である金方慶という人。元にいじめられ、有能とはいえない王を補佐しながら、なんとか高麗の社稷を保とうと苦労する。フビライが命を発するたびに膨大な数の軍船を作らされ、壮丁を軍役に徴発しなければならない。国はほろびる寸前。倭人ども、変に抵抗しないであっさり降伏すればいいのに、迷惑な・・。
この当時、高麗は忠列王という人だったようですが、苦し紛れに「私を征討軍の責任者に任命してほしい」と直訴したりもしています。要するに主導権をとりたい。そうしないと、フビライ側近とか親元派閥の言いなりになってしまう危険がある。ま、さすがに直訴は効かなかったようです。
昔の定説とは違って、鎌倉の指示のもと、日本防衛軍はかなり善戦したようです。すぐに一騎討ちを捨てて、騎馬による集団戦法もとった。被害は甚大だったけど、部分的には優勢にも立ったらしい。ただし文永の役はたぶん元からすると小手調べ。あんがい抵抗が強いので、いったん撤退しようとして、帰路で大風に吹かれた。神風というほどの風ではななかったようですが船が壊れて多数が死んだ。。
弘安の役では規模を拡大し、高麗を主力とした東路軍、旧南宋を主力とした江南軍の二手に別れて来襲。しかし日本側もしっかり準備していたので、簡単には進めない。ぐずぐずしているうちに、本物の台風で、かなりの数が沈んだ。シーズンもシーズンです。ずーっと海に浮かんでいたら確率としてそのうち大風にも吹かれます。南宋軍、長江で水戦に慣れているつもりだったけど、九州の台風は予想外だったらしい。
ちなみにフビライは諦めず何回も再侵攻を計画したようです。しかしその度にベトナム遠征とかなんとかハプニングがあり、どうしても実現しない。で、そのうちフビライが没して、日本征服の夢もついえた。よかったよかった。
「太閤の巨いなる遺命」岩井三四二
★★ 講談社
同じ作者で、これは大阪の陣の前後。舞台はシャムです。当時、シャムにもけっこう日本商人たちが住んでいたんですね。で、その界隈で関ヶ原浪人たちが集まって何やら画策しているらしい。いったい何事か、と、これまた侍あがりの商人が探索する。
で、探索の結果は・・・・それほど仰天でもないです。ま、打倒家康ということで何かを作っている。で、その何かが何してどうなって何になる。さして感動もなし、傑作ではないような気がします。