★★★ 文藝春秋
戦前の東京郊外の中産階級が暮らす赤い屋根の小さな洋館。戦争のことなんて気にもせず日々の生活にいそしんでいます。奥様と女中はたまに銀座に出かけては洋菓子を食べ、洒落たお土産を買って帰る。懐かしき日々。
先に映画を(もちろんテレビで再放送)見てしまったので、なんというか、人物がみんな松たか子やら黒木華になってしまう。あ、青年デザイナーの役だけは吉岡秀隆じゃなくて、誰か別のイメージ。あのドラマ、吉岡クンだけは場違いだった。
映画もよかったけれど、小説はもっと良かったです。奥様の浮気の部分はさして比重が多くない印象。あくまでテーマは自分と美しい奥様が過ごした甘美な月日ですね、たぶん。戦前の中産階級の、ちょっと背伸びした暮しぶり。そして女中のもつ「ある種の賢さ」と葛藤と小さな嘘のお話。
年取った主人公のもとに出入りする甥っ子の次男。彼の「暗い足音のせまる戦前」論はちょっと練れていない生硬なセリフまわしで、どうかなとも感じますが、ま、瑕瑾。作者はこれで直木賞をとったらしい。