「田中角栄の青春」栗原直樹

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:
★ 青志社
kakuei-seishun.jpg
著者は政治秘書かなんかの経験者、たぶん。だから政治家がどう考え、どう動くかについては自信をもっているのでしょう、たぶん。

「田中角栄の青春」だなんて、ずいぶんダサいタイトルで、通常は借りない本なんですが、実は以前から角栄の若いころについては関心がありました。田舎から出てきた高等小学校卒の青年がどうして若くして材木工場だったか建設会社だったかの経営者になれたのか。その最初のステップを書いたものを読んだことがない。

成功した企業家とか経営者とか、一念発起してから数年の間、ひたすら苦労というストーリーがよくあります。製品を試作してみたけどまったく売れなかった。しかし苦節3年、ついに売れ始めた・・・とか。

その3年間、どうやって凌いだのか。どうやって資本を繋いだのか。奥さんが働いたのか、誰かが資金を貸してくれたのか。泥棒したのか。このへんがモゴモゴあいまいなケースがほとんどですね。そして功成り名を遂げた社長は、そんな昔の話をけっしてしない。

で、田中角栄。いままでいろんな説を読みましたが、いちばん面白かったのは「日中国交回復日記」の王泰平の説。あくまで「噂話」という前置きだったと思いますが、ようするに角栄は木材だか建設だかの会社に採用された。若いけれども非常に優秀でやり手。やがて会社の社長が出征することになり「留守のあいだ、すべてお前にまかせる。よろしく頼む」と言い置いた。

二つ返事で引き受けた角栄青年は会社をしっかり切り回し、ついでに社長の奥さんまで切り回してしまった。やがて戦地から戻ってきた社長はあきれ返って、こうなったら会社も女房もお前にくれてやる!と身を引いた。奥さん、家付き娘だったのかな。それなら話が通ります。以上、非常に面白い説でした。(ただしこれを北京日報記者の王泰平は周恩来に報告した可能性もあり、信用していたかもしれない)

とかなんとか、雑談でした。そうそう。この「田中角栄の青春」での筋書きは平凡で、当時から強大な力をもっていた理研にすり寄ってコネを作り、そこから軍の仕事を請け負って莫大な利益を出した。そして敗戦のドサクサを上手に切り抜けて資金を確保。そして巨額を貢いで公認を受け、立候補もさせてもらう。ま、そんなふうな話でした。精力的で非常な運にも恵まれた中小企業主の出世物語でしかありません。

角栄本人も「運」を信奉していたらしいですね。人間、60%は運次第。いやいや90%かもしれない。