誰を書いたものかなと思っていましたが、冒頭いきなり近江屋シーンだったので中岡慎太郎と知れました。そういえば中岡を主人公にした小説、ないですね。
だいぶ以前、長崎で海援隊の宿舎というか合宿所というか、山の上まで登ってみたことがあります。亀山社中記念館ですね。そこで壁に飾られている資料をながめていたら、例の中岡慎太郎の笑っている写真があった。
慎太郎というと、刀を横にして怖い顔で睨んでいるのが定番ですが、笑顔バージョンがあるとはしらなかった。底抜けに子供っぽい表情で、そうか、こういう男だったんだ。おまけに横が乱暴に消されている。女が写っていたらしい。
上下2巻、けっこう楽しく読めました。中岡の功績というと五卿の世話をしたこと、薩長同盟に奔走したこと、陸援隊をつくったくらいしか思い当たりませんでしたが、そうか、岩倉具視を発掘したのも中岡なのか。結果的に三条実美と岩倉具視をくっつけた。維新成功のためには岩倉の悪巧みが不可欠なわけで、三条・岩倉という強力ペアを実現させたのはすごい功績でしょうね。板垣退助をくどいて薩摩との密約(武力倒幕)させたのも中岡らしい。
福田善之という人は筆の達者な人なんで、とんとん読めます。ただ事実の羅列だけではさすがに辛かったようで、おふうというクグツの女も登場。舞台回し役のクノイチです。ふつうは余計な・・・と嫌がられる部分なんですが、これかけっこう魅力がある。というより、幕末もので男でも女でもこれだけしっかり書かれた小説はないです。キャラクターに血が通っている。
この小説の高杉晋作もいいです。快男児ではありますが人間臭い。最後は芸者買いにいくぞとわめいて長刀抱いて駕籠にのったものの、駕籠の揺れについ下を漏らしてしまって死期をさとった。その高杉が死んでから、愛人のおうのが尼にさせられた状況なんかも、けっこうおかしい。お調子者の伊藤と誰だったかが無理やりおさえつけて髪をジョキジョキ切った。かなり抵抗したらしいです。ひどい話だ。みんな、やることが乱暴です。
話は違いますが、こうした幕末の志士たち。どうやって食べていたんだろう。昔から不審に思っていました。そりゃ豪商からの寄付やら薩長の秘密資金なんかはあったでしょうが、それだけで足りたのか。たとえば司馬さんの龍馬なんかでは、気軽に松平春嶽から大金を預かったりしてますが、たぶんそのうちの何割かは使ったんだろうな。そうでもしないと経費や生活費が捻出できません。
いきなりグラバー陰謀説なんかではなく、志士たちの活動を資金面からみたような本、そろそろ出てもいいですね。