テーマは面白そうなんだけどなあ。惜しい本です。著者は英国のジャーナリスト兼ブロードキャスターらしく、日本でいったら誰に相当するんだろ。いま売れっ子の池上さんみたいな立ち位置だろうか。ま、広範な知識を持つすごい人なんでしょうけど、それぞれの分野の専門家ではない。広いけど、そんなに深くはない。
地政学から代表的な国家の成り立ちや方向性を見る。たまたま指導者がどうのという問題ではなく、国家には宿命みたいな部分があるんですね。だからたとえば中国の場合、西の入り口である新疆ウイグル、南西の玄関チベット。ウイグルを失うと広大な中央アジアと素通しになるし、チベットという緩衝材がないと直接インドとぶつかる。
したがって、中国のどんな政権であろうと、こうした「危ない部分」を手当てしたいと思うのは当然の成り行き。この二方向をふさいでおくと、ようや安心できる。北にロシアはあるけどモンゴルの沙漠をへだてているし、北東は山。東と南は海。ベトナムとの国境だけは空いてるけど、ま、そんなに怖くはないだろう。たいてい大丈夫です
同じように、たとえば寒いロシアの場合だったら不凍港確保の問題がある。ソ連崩壊のゴタゴタでついウクライナを失ってしまったけど、これじゃ困る。それで必死でクリミアを確保した。プーチンの考えというより、ロシアという国家の希求なんでしょうね。他の誰かが大統領であっても、たぶんいつかクリミアを回復した。
という具合に、なかなか面白いんですが、ちょっと内容が浅い。「へぇー!」という驚嘆が少ない。目からウロコ部分もあるにはあるけど、どうでもいい(どこにでも書かれているような)常識的な記述が多いなあ・・・。
そうそう。翻訳はあまりよくないです。「東から西へ流れる黄河と長江」という一文に出会ったときは腰が抜けた(※)。校正が足りないのかな。ついでにですが、地図もひどい。原本のマップをてきとうに日本語化したのか、見にくくって仕方ない。資料としての価値がない。ぜんたいに「丁寧さ」が足りない印象でした。また奥付に「翻訳協力 トランネット」とあったけど、そういう専門の会社があるんでしょうね、きっと。ついでですが版元の「さくら舎」というのは新しい出版社のようです。コミックとか新感覚のハウツウ本が得意みたい。
※ 「ロシアはインド洋への出口が欲しくてアフガンへ侵攻・・」なんて一節もあった。もちろんアフガニスタンは海に面していません。著者がいけないのかも。
よくもこんなに見にくい地図をつくる・・・