早川書房 ★★★
道東の旅で読了。なんせ空港でたっぷり時間があったので、ひたすら読んでました。
読み初めてすぐ出てくる「介護人」とか「提供者」という言葉に違和感を持ちます。ん? SF仕立てなのかな。ヘールシャムという施設か学校かが重要な意味を持つらしい。
解説にもありましたが、主人公たちがどういう存在なのか、けっこう早い時点で見当がつきます。でも秘密探しがテーマの小説ではないので、それはどうでもいいようです。作者のカズオ・イシグロでさえ、この本を人に紹介するとき、秘密をバラしてしまってもいっこうに差しつかえないと言明しているようだし。
カズオ・イシグロは他に「日の名残り」しか読んでいませんが、土屋政雄という訳者が丁寧な仕事をしていますね。穏やかな雰囲気の半分以上をつくっている。はい。グロテスクともいえるような題材ですが、とくに事件らしい事件は起きません。些細な出来事の連続である遠い日々。ただしその記憶のミルクの中に、ちょっと消化しきれない粒々のような感覚だけが残ります。どんな粒かは、たぶん人それぞれで違う。