「微笑む慶喜」戸張裕子

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草思社 ★★★
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副題は「写真で読み解く晩年の慶喜」。ちなみに慶喜の名誉回復は明治中期からのようです。明治30年に静岡から東京に居を移し、31年には天皇に拝謁(ただし内々)。35年に公爵に叙せられ、これで公式に復権。それから没するまで(大正2年)の間の写真が多く掲載されています。

感じたこと。

昔の生活は大変なんですよね。家と家の付き合いは面倒で、家族の中でも序列があり、そうした秩序をきちっと守っていかないと暮らしていけない。生活できない。

たとえば何かでお祝いしてもらったら、その返礼訪問だけでも1日がつぶれる。馬車で数十軒とか。仮に玄関先で挨拶だけして、名刺を置いてすぐ次に回るだけでも大変。考えただけでも面倒です。

35年の名誉回復のあとはもう遠慮することなく、徳川一門や一族、家臣なんかが集まってはお祝いをしました。公式のものもあるし、もっと私的なものもある。宴のあとは庭に集まって集合写真。この写真がなんというか、味があるんですね。親戚たち、息子たち、娘たち、またそれぞれの正室とか女中とか側妾とか。みんな自分の地位と立場を考えて適当な場所に並んでいる。一人々々の顔を眺めてみるだけでも、いろいろ関係が読み取れます。実に面白い。

そうそう。重要なことではありませんが、慶喜ってのはあまり背が高くなかった。均整はとれているけど、どちらかというと小柄。よく見る抑制的な表情の写真だけではなく、ごく稀には微笑んでいるスナップ写真もある。ま、それがこの本のタイトルになっているんですが。

写真が貴重なだけでなく、当時の人間関係や動き、よく調べられている本です。