奥付を見ると2018年9月刊行。上下2巻。図書館が購入してからまだ誰も手を触れていないような雰囲気で、中央あたりのヒモしおり(スピン)がきれいに畳まれている。すこしトクをしたような気分です。
この著者は初めてです。カナダの作家。3部作シリーズの2作目らしい。一応は近未来のSF仕立てというか、ま、ファンタジーですが、オーウェルの「1984年」に似ている。ディストピアですね。
小説の舞台、多くの自然動物や家畜たちはほぼ絶滅して、その代わりDNA操作による合成動物が徘徊している。たとえばライオンと小羊をゴチャまぜにしたやつとか、人間の髪の毛を生やしたモ・ヘアという便利動物とか(たぶん植毛用)。人間に匹敵する知能をもった犬(危険)とか、賢い豚(怖い)とか。社会ぜんたいを巨大な科学カンパニーが支配し、カンパニーに勤務するエリート以外の一般下層民は、みんな汚物にまみれた暴力スラムで暮らす。
で、そうした科学万能享楽主義に抵抗する疑似キリスト教ふうのカルト教団もあり、スラムのビルの屋上で畑をつくって暮らしている。すべからく生命は奪いません。虫も殺しません。肉も食べません。ビーガン。生活に必要な物資はゴミ廃棄物を再利用して作ったりしている。ただ、絶対に食べないわけじゃなくて、ま、原則としてですね。たまに鳩のタマゴをいただくとかはいいんじゃないかな。
この清貧のカルト教団に、殺されそうになったヨレヨレの女が逃げ込んできます。そこからストーリーが始まる。かなりゴチャゴチャした内容だし、けっこう宗教臭もあるので、数十ページを我慢できるかどうかがカギかな。最後まで読み終えても、はて、傑作なのか駄作なのか、どうもよくわかりません。アーシュラ・K. ルグウィンの「オールウェイズ・カミング・ホーム」みたいな感じですね。魅力はあるけど、けっこう辟易する。
最後まで読めたんだから、面白いということになるのかな。
そうそう。「洪水」は、水ではなく、厄災の洪水です。つまり正体不明の疫病の襲来。少数をのぞいて、人類が滅亡してしまう。残った連中がどうなるのかはまだ不明。