荻原浩にしては珍しく主人公は破壊力抜群の暴力団員。組がどんどん合理化・会社化・スマート化していくなかで、本人は旧タイプの粗暴派でおまけに酒浸り。衝動を抑えきれず、ついつい暴力をふるってしまう(しかも常にやりすぎ)。
読むにつれ時代背景もあきらかになってきます。どうやら二度目の原発事故があったらしい。テロリストに乗っ取られた航空機が原発に激突。日本はダメになりかかっている。よせばいいのに海外派遣の自衛隊はまた「武力衝突」してしまったらしい。暗い。
で若頭の指令で病院へ通う。タテマエはアルコール依存症治療なんだけど、はて、謎がある。実際には・・・・というのがストーリーです。
医師の診断では、主人公はどうやら「反社会性パーソナリティ障害」というものらしい。他人の気持ちがわからない。罪悪感がない。とりわけ「恐怖」という感覚がない。だから徹底的な暴力を躊躇なくふるえる。何をやっても怖くない。
病院で妙に明るい幼い少女とも知り合います。こっちはウィリアムズ症候群。主人公のちょうど正反対なのかな。楽観的すぎる。相手を信頼しすぎる。ようするにすごく「いい子」なんでしょうね。ただし心だけでなく肉体的にもいろいろ障害が出てくる。
こうして主人公は(治療のすえ)だんだん症状が緩和。人間らしくなってくる。相手の気持ちがわかってくる。そして生まれた幼い少女との新しい関係。そして・・・。
最終的にあきらかになる「巨大な陰謀」とかは、あまり面白くないですが、話がすすむにつれて、困ったタイプの暴力団員なのにだんだん共感が生まれてくる。このへんが不思議ですね。
そうそう。海馬はもちろん「かいば」と読みます。脳の奥深く、タツノオトシゴみたいな部分ですね。