池澤夏樹個人編集の全集の一冊。
そもそも「武蔵野夫人」を読むために借りたんですが、比較的長いそっちはまだ時間がかかりそうなので、とりあえず手軽な後半部分だけ。後半は「俘虜記」「一寸法師後日譚」「黒髪」などです。
「俘虜記」というのは、いわば合本で「捉まるまで」「サンホセ野戦病院」「労働」などなど一連の短編の総称らしいです。知らんかった。フィリピン・ミンドロ島で俘虜になり、レイテ島に運ばれて収容所で暮らす。たしか「野火」というのもあって、こっちは昔に読んだような記憶あり。
で、その「俘虜記」。やはりいいですね。マラリアで死にかけている落後兵の前に、ひょこっとあらわれた若い米兵。撃つかどうか。右手は無意識に撃鉄を上げて(注)いたけど、だからといって殺す強い意志もない。撃ってもいいし、撃たなくてもいいし。ただしこの短編も大昔に読んだような気がする。何十年前ですか。完全に忘れています。
野戦病院とか収容所の記録もなかなかいいですね。ただしこれらをつい「実記」と思いたくなりますが、そうとは限りません。いかにも記録ふうの小説なのかもしれない。大岡昇平というのは、かなりクセの強い人の印象で、一筋縄ではいかない。ただし「レイテ戦記」だけはさすがに小説とはいえないだろうなあ。
「一寸法師後日譚」はそこそここ気の利いたおとぎ話。太宰の「御伽草子」にも似ていますね。「黒髪」は流れ流れる女の半生記。花柳小説とかいう分類らしいですが、それには少し違和感。坦々と書かれているようなのに余韻のある小編です。
(注) 撃鉄だったか遊底だったか、上げたか引いたか、このへんの記述は記憶が不正確。どうだったっけ。銃のことはよく知らない。
確認。「銃の安全装置をはずす」という表記でした。