河出書房新社★★★
河出の「大岡昇平」にて。短い「俘虜記」なんかを先に読んでしまって、そもそもの目的である「武蔵野夫人」はじっくりとりかかりました。正直、途中で止めようかと思ったけどようやく読了。
なるほど。そういう小説でしたか。なんといいますか、よろめき小説・姦通小説ともいえるし、心理小説でもある。作家が神の立場で、二組の夫婦と若い復員兵の心の動きをことこまかに説明するスタイル。いちおう悲劇的な結末ではあるんですが、あんまり深刻感はないです。
なんといっても大岡昇平ですから、武蔵野の「はけ」の地形描写が細かい。こっちが中心みたいな印象ですね。中央線の武蔵小金井から国分寺のあたり、線路の南側に野川という細かな流れがあって、その北と南ではガクンと標高がかわる。崖の連続です。いわゆる国分寺崖線。斜面からは所々で清冽な水が湧き出る。こういうところに広い敷地の家があり、主人公たちが住んでいる。
なかなか面白い小説でした。でもこういう本が当時のベストセラーになったというのは「はてな?」ですね。姦通ものではあるけど、まったく生々しくはない。抑制されていて品がある。ただし現代の感覚からすると、かなり七面倒くさい小説です。
そうそう。後半に二人が村山貯水池へ行き、台風にあってホテルに泊まるシーンがある。たぶん下の写真のことだと思うのですが、丸い屋根の取水塔の話があります。嬉しくなったので掲載します。