「薔薇戦争」陶山昇平

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イースト・プレス ★★★

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わけのわからない戦いなんですよね。時代は応仁の乱とほぼ同じ。応仁の乱もゴタゴタして経緯不明ですが、薔薇戦争も尻めつれつ。いや、支離滅裂。

ごく簡単にいえば王位継承をめぐってヨーク派とランカスター派、さらにはそれぞれの兄弟親戚同士が約30年にわたって、イングランド全土で戦った。ヨークもランカスターも、どっちもまあ王家の血筋です。すぐ決着がつきそうだったんですが、意外や意外で長引く。各地の有力貴族たちが次から次へと蜂起したり、裏切ったり、仲間についたり。結婚したり離婚したり。

面白かったのは、それまでの貴族や王家の戦い、大勢が決着すると「ごめん」と片方があやまる。片方が「もうやるなよ」といって、ちょっと罰金とったり領地を削ったりして終了。ま、そういうふうだった。伊達政宗とか織田信長が出てくる前の日本の戦国ですね。

とこがこの薔薇戦争、談合が通じなくなった。まけると本当に殺される。敗退後は即席裁判なんかで領地没収。なあなあじゃなくなったわけです。徹底戦。だから恨みが残る。それで消耗戦の末、薔薇戦争の後は各地の有力貴族が没落し、力が失われた。かくして絶対王政の誕生です。そのいちばん美味しい果実を得たのがヘンリー・テューダー。即位してヘンリー7世です。

このへんを舞台にしてジョセフィン・テイに「時の娘」という本があります。あれ、書評は書いてないか。この「貴族を拷問できないのは何故だろう」で少し触れていますが、非常に面白い推理小説だった。テーマはリチャード3世の無実証明。しかし数年前にリチャード3世の遺体が教会の駐車場かなんかで発掘されて、背骨の湾曲はデマじゃなくて事実とわかった。邪悪なリチャード3世説の一部が証明され、いっそう真実は藪の中です。

ちなみにリチャード3世の死骸はメチャクチャ粗末、侮辱的に扱われていたらしい。元イングランド王ではなく、犬豚も同然、憎まれた無頼漢の扱いですね。そういう時代になっていた。

蛇足ですが、リチャード3世というのは悪辣で醜い体型で邪悪の権化。シェークスピアが戯曲でそう決めてしまった。以後は世界の定番、常識。
もっと蛇足ですが、シェークスピアはエリザベス女王の御世の人です。ヘンリー7世の子が、王妃を殺しまくったヘンリー8世、その娘がエリザベス。リチャード3世は、いわば王室の敵だった男ですね。徳川時代の浄瑠璃作家が、光秀や秀吉を良く書くわけがない。