「街場の天皇論」内田 樹

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東洋経済新報社★★
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内田樹の「樹」は「たつき」と思っていましたが、違うようです。「たつる」。

なんとなく名前は知っていたものの、読むのは初めてです。うーん、どう評価していいのか。ちょっと単純ではないものの、どうやら「天皇制」を強く支持している人らしい。厳密には「支持」という言い方も違うんだろうな、きっと。

いわゆる右翼ではない。保守ともいいずらい。かといってリベラルと評していいのかどうか。「情」を重視とか、伝統武道の尊重とか、「源平合戦は『馬派』と『海派』の対立」とか。またスポーツ武道と伝統武道は似て非なるものらしい。妙にこだわっている。

そうそう。先年あった平成上皇の引退意志表明。あのときなぜアベがいやな顔をしたのかをスッキリ説明しています。ようするにシンボルである「玉」が自分の意見を言ったりしちゃ都合が悪いわけね。天皇は権威をもっていてほしい。しかし閉じこもっていて顔を出さないでほしい。しゃべらないでほしい。そうでないと、自分の好き勝手に動かせない。

たとえば2.26。反乱将校が獄中で天皇に対する怒りを発しています。それと同じですね。自分たちの意向に沿ってくれない天皇は天皇なんかじゃない。ま、日本において、天皇制はずーっとそういう位置づけだった。

話は違いますが戦後、日本の対米姿勢は一貫しているようで実は違う。かなり変化してしまった。戦後しばらくの従属は立派な「戦略」でした。いまに見ていろ。従順な下僕として実力を蓄えよう。しかしいまは何も考えていない。戦略なき惰性。思考停止、米国のいいなりになることが正しいと頭から思い込んでいる。それ以外の将来を考えられない。

いまの時代、端的にいうと、前の大きな戦争と、次の戦争の間のひとときの平和時期です。いわば「間戦期」ですか。そのうち(10年後か50年後かは別として)また戦争が起きるでしょう。なんせ政権は戦争のできるふつうの国家にしようとして必死に頑張っているんだから。

なぜかアベとその一統は「戦争のできる国」がいいと思い込んでいるらしい(たぶん米国は喜ぶ)。ただ政権幹部、その結果をきっちり考えてはいないし、明確に意識もしていない。ぼんやりした期待ですか。そっちのほうがカッコいいじゃないか。ま、そのうちまた戦争でしょう。

本筋の話ではないですが内田によると、戦前の永田鉄山殺害(相沢事件)の本質は教育総監の座(帷幄上奏権をもつ)をめぐる利権争いだそうです。天皇へ上奏できる地位は非常に重く、陸海軍大臣や参謀総長、軍令部総長とならんで教育総監もそうだった。で、その教育総監の座をめぐる皇道派・統制派のゴタゴタが殺害事件となった。たんなる理念やイデオロギーの衝突と言い切ると、ちょっとキレイすぎるのかもしれないです。

この人の論説すべからく、全面賛成はできないけど、ちょっと違う角度の分析でした。面白いけど、疲れる。