半藤はもちろん文春出身の昭和史家(か?)、秦は二次世界大戦あたりを中心の軍事史家、戸髙は戦後生まれで呉の大和ミュージアム館長。
その三人が連合艦隊12隻の戦艦についてきままな放談。そうか、連合艦隊には戦艦が12隻もいたのか。
12隻は金剛、比叡、榛名、霧島、山城、扶桑、伊勢、日向、長門、陸奥、大和、武蔵。このなかで(大和、武蔵は別格として)長門、陸奥というのも格上の戦艦だったらしい。知らんかった。長門は連合艦隊の旗艦として記憶。陸奥はたしか原因不明で爆沈したような。戦後の人間からすると、ちょっと影が薄い船です。
それぞれの戦艦の運命を語ってるんですが、うーん、どれもこれも、一部をのぞいて不本意な生涯です。巨費を費やして建造されたのに能力を生かすことなく、結局は無駄に沈む。
そうそう。この三人、栗田提督については、レイテ湾の謎Uターンだけに限らず、そもそもがそういうタイプの人だったという前提でしゃべっています(※1)。常識なのかな。また栗田提督だけでなく、そもそも虎の子戦艦、みーんな動き方が慎重すぎる。用心ぶかすぎた。沈めちゃいけないってんで、大事にしすぎた。だからレイテ湾だけでなく、せっかくの戦艦群、ひたすら無駄に油を燃やし続けて死に場所を失った。。
ついでですが、ミッドウェーの南雲提督。山本長官とはあまり肌があわなかったらしい。山本は飛行機家。南雲はコチコチの艦隊派。それなのにミッドウェーは南雲にまかせたし、負けてからの責任もとらせなかった。これは美談のようで、違う!と三人は言います。こういう温情みたいな処置、山本五十六の大失敗だったんじゃないだろうか。南雲を罷免して自分もやめる。つまり組織大改革が必要だった。
ぜんたいに読みやすい内容ですが、読了して悲しくなります。比較的マシだったといわれる海軍ですが、しょせんは硬直した「官僚組織」ですね。軍人官僚。年功序列。組織がガチガチで柔軟性がない。縄張り争い。頭が固い。思い込み。決めるともう変更できない。目的と手段の混同。現在のコロナ対応に追われる政府みたいな感じで、怖いくらい似ている。悲しいくらい無能。(※2 ※3)
最後の大和の出撃。これも何のための出撃だったのか。指令から読み取れるのは「海軍の伝統と名誉のため」です。海軍のために死ね。米軍に渡したくなかったのか。ウソでもいいからなぜ「日本国のため!」と言えなかったのか・・と戸髙さんだったかな、怒っていました。もっともです。
ほんと、負けるべくして負けた。戦艦の目的である華々しい砲撃戦だって、やったのは1回だった2回だったか。そんな程度です。おまけに巨砲は当たらなかった。日本海会戦ではよく当たったけど、あれは射程をギリギリ詰めて、怖いけどごく近距離から打った。
「射程3万メートルなんて、そんな水平線越しの砲撃して当たるわけがないんです」とか。3万メートル飛ばすと着弾まで1分だったか1分半だったか、けっこう時間がかかるらしい。建前上は観測機がいることになってるけど、実際の運用は大変です。
日本の誇る新型魚雷なんかも射程距離が長すぎて、これがアダになったらしい。なまじ届くもんだから水雷艇が踏み込まない。遠くからへっぴり腰で発射する。だから当たらない。すべてが悪循環。アウトレンジ戦法の誤算。(※4)
※1 ついでに。なんの話だったか、航空参謀の源田実もけっこうくさされていたような。戦後生まれの素人にはうかがいしれない、研究家たち共通の「常識」があるんだろうか。
※2 配置は卒業時の成績で上位から戦艦、巡洋艦・・・・と振り分け。最下位が駆逐艦や水雷艇なんかの担当になった。しかし実際によく働いたのは駆逐艦などの小艦。役にたつはずの人材が実は役にたてなかった。
※3 魚雷監視のソナー担当なんかでも、優秀なベテラン連中は戦艦とか巡洋艦。成績不良や新米は駆逐艦とか。しかし実際にはエンジンが近くてうるさい小艦艇の場合、ソナー探知は非常に難しいらしい。難しい部署に新人がいくから、現実には役に立たない。ついでに、大切な戦艦はあまり危険な海域には派遣されなかったので優秀なソナー担当は暇していた。
※4 日本の兵器の特徴で、魚雷も優秀だけど敏感すぎた。だから優秀なパイロットしか使いこなせない。高度からドボンと落とすと爆発した。レイテだったか、敵雷撃機が高いところから魚雷を落としているのに、日本側は「爆弾投下」と勘違いしていたらしい。
※ ミッドウェー時点ですでにレーダーは完成していた。ただし実戦投入の戦艦や空母には搭載せず。レーダーをとりつけた軍艦(日向かな)はなぜか後方から付いていっただけらしい。なんかやることが中途半端。もったいない。
※ ガダルカナルで滑走路にむかって史上初の艦砲射撃をしたのは日本の戦艦(※追)。ただし運もあって効果があまりなく、おまけに非難された。不発弾を拾われて新砲弾を研究されたらどうする! で、米軍はこの「艦砲射撃方式」を気に入ったらしくすぐ採用した。
※追 このとき山本長官から砲撃命令をうけた栗田はいやがったということになっている。