講談社といっても『講談社選書メチエ』のシリーズです。固い。『シートン動物記』から『ザ・コーヴ』へ というサブに釣られて借りたけど、けっこう手こずった。
子供のころ、ファーブルよりシートンのほうが好きでした。フンコロガシよりはオオカミですね。読んだ「シートン動物記」、版元は忘れたけど、固い表紙の。青か緑の表紙だったような気がする。内山賢治の訳文がやわらかくて、大好きだった。
後年になって「動物記」という本は存在しないことを知りました。シートンの短編を適当に集めて訳したらしい。で、平岩米吉という人がいて、詳細は不明ですが日本の動物文学普及の創始者みたいな存在らしい。で、平岩+内山のコンビでシートン本が爆発的に売れた。
ということでシートンの動物文学について。もちろん初耳ながらセオドア・ルーズベルトと大論争があったんだとか。「しらんくせに動物を適当に擬人化するな」という趣旨。ルーズベルトの攻撃の的先はロングという牧師だったけど、その仲間としてシートンも叩かれた。ついでにジャック・ロンドンもケンカに加わった。ルーズベルトってのは狩猟大好き大統領ですね。自分では「動物のプロ」と思っていたんでしょう。
つまりは「スポーツハンティングを趣味とする高貴な人」と「動物を殺したり食ったりウソ書いたりして稼ぐ野蛮な連中」の対決です。当時はルーズベルト派のほうが大勢で「ネイチャーフェイカーズ」を叩いていた。つまりウソツキ自然派。
シートンの次のテーマは星野道夫。よく知りませんがアラスカに魅せられて、いい写真を撮ったり書いたりした人のようです。
で、ここでもアラスカにやってきて「カリブーの大移動」なんかに感動する観光客と、現地エスキモーの対比。エスキモーはカリブーを見ると唾液がわいてくる。エスキモーでなくても、子供のころからアラスカに住んでる白人も、やはり無意識に銃をとってしまう。反射的に撃とうと思う。カリブーは食い物なんです。「美しい・・」が先にくるわけではない。
そして最後はイルカとかクジラ。グジラやイルカにまったく関心なかったはずの白人連中が、なぜか大騒ぎする奇妙な風潮、いったいどこから始まったのか不審に思ってはいましたが、ようやく解決です。
その前からいろいろあったんですが(※)、決定的なのは1960年代の脳科学者ジョン・C・リリーという人。天才肌の怪しい人だったらしいけど、なんかイルカに魅せられた。でイルカの脳とサルの脳を比べたりして、イルカがいかに優れているか主張しまくった。ただし、サルというのが小さな猿なのか大きなオランウータンなのか、判然としない。怪しいクスリをやるかたわら、とにかく「サルの脳のほうが小さい。大きいほうが賢い」と喧伝した。
あっ、自費でイルカ研究所みたいなのを作って、いろいろ実験。イルカと人間の会話実験なんかもした。ただしイルカと接してビデオに映るのはみんな若い美人です。自分は顔を出さなかったらしい。賢い。
ま、そんなこんな。動物(とくにイルカ)は愛して保護すべきものということに決まった。で「ザ・コーヴ」という映画は、その明確なプロバガンダですね。非常に上手に作った。べらぼうに影響があった。優しく賢いイルカを撲殺する日本の野蛮で陰湿な連中・・という構図は大成功です。
動物を可愛がる高貴な(白い)人々、動物を殺す(黄色や黒い)野蛮人。この対決構図が大好きな人々、いまでも圧倒的に多いんでしょう。歴史的には優生思想なんかも絡んでいるみたいです。
ちなみにこの本は著者が博士論文をもとに大幅加筆したもので、どうりで難しい。意地悪くいうと(概観と説明だけで) 論旨主張ははっきりしない。けっこう疲れる本でした。
※ クジラが異星からの使節だったら意志疎通できるか?・・とか。けっこう流行したらしい。そういうふうなSFもありますね。