光文社★★★
岩井三四二は「異国合戦 蒙古襲来異聞」とか「三成の不思議なる条々」とは、ま、かなり読める作家です。かなり読めるけど傑作とまでは言えない、たぶん。
で、今度の「天命」。図書館でパラパラめくってみたら毛利元就のようだったので、興味をもって借り出し。毛利ってたしか永井路子だったか「山霧」というタイトルで書いています。元就の妻の視点で、上下巻。そこそこ面白かったですが、正直いって毛利って基本的に地味なんです。
そもそも安芸の山の中の小さな領主、国人っていうんですか。それも当主の叔父かなんかの立場で、そこから一歩一歩はいあがる。周囲は敵と縁戚と怪しい連中だらけだし、そうした雑魚をなんとか凌いでも西に大内、東北に尼子。やたら大きなのが控えている。
ミドルクラスのモンスターを片づけてホッとしていると、また次のが来ます。西を攻めてると東が不穏になる。いろいろ辛気臭くてたいへんです。大転機となった厳島の戦い(陶晴賢の大軍を撃破)が、たぶん58歳くらいかな(※)。実際には長寿で74、75まで生きたんですが当時の感覚としてはもう晩年ですね。で、なんとか防長をとって、岩見を攻め上がり、出雲の尼子と戦う。ふと気がつくと、たぶん中国地方のすべてが自分のものになっていた。ここで終了(※)。
この本ではひたすら「隠居したい・・」と願いながら、なかなかできない。ほとんど晩年まで仕事をし続けた。戦い、準備し、陰謀をめぐらし。周囲の評判は、たぶん非常に悪いでしょう。ま、悪人ですね。ただし本人だけは地道に生きてきたと思っている。
※べらぼうに強大だった大内氏をのっとったのが陶晴賢です。
※信長なんかは当主になった時点ですでに尾張半国で、そこから開始した。安芸の田舎領主の叔父とは出発点が違うんですね。