木村草太はもちろん気鋭の憲法学者。大澤真幸は知りません。(調べたら数理社会学、理論社会学。社会学博士だそうです。わからん)
で、まあ、そのお二人が天皇制について語る。ちゃんと「難しい 天皇制」とあるように、ほんと、難しいようです。
なんせシンボルですからね。象徴というのは実態がないはずなのに、先代の天皇(上皇)は「象徴としての仕事」とかよく語っていました。戦地巡礼とか被災地激励とか。でも国民の共感を得たこととは無関係に、仕事をしたらもう象徴ではなくなる。矛盾。
で、そもそもをずーっとたどってみると、昔から『天皇』は矛盾でよくわからなかった。正体不明。なぜ偉いのか。なぜ権威があるのか。なぜ滅ぼされなかったのか。
賢いお二人がなんかややこしい言い方をしていて、つまりは『空気』なんだそうです。万世一系とか天壌無窮とか、大昔から本気で信じていた人はほぼいなかった。誰も本気で信じていなかったのに、ずーっと続いたのは、そのほうがなにかと良かったから。
信長はともかく、本気で天皇にとって代わろうと思った権力者はたぶんいません(※)。とって代わったっていいことないし、むしろ残しておいたほうが都合がいい。最終的に「これでいいよ」と空気を読んで保証してくれるのが天皇。そして天皇が保証してくれないと、なぜかモノゴトがうまくはこばない。不思議にギクシャクする。貴重な存在だけど、だからといってさほど大事にされているわけでもない。
天皇は犯すべからざるものだから続いた。続いているから犯すべからざるものである。循環論ですね。木村草太の説では、憲法にきっちりした『民主主義』の定義はないんだそうです。なぜ首相がトップに立つのかの理由付けも実は明確ではない。主権在民と天皇制のすりあわせも実はあやふや。肝心の部分が非常にあいまい。
それでもいいじゃないか・・というのが日本だった。そして「それでいいじゃないか・・」の象徴が天皇制。なんのこっちゃ。ようするに、難しい。難しいけど、なかなか面白い本でした。
※ いい例として平将門はうっかり「新皇」を称した。これが大失敗だったというわけです。
※ GHQの当初メモでは、天皇は「headquarter of state」だったかな。そんなふうな書き方だったらしい。それがなぜか「Symbol」にかわった。面白いですね。あと当時は「8月革命論」という考え方もあった。明治憲法下の天皇が自身を否定するような憲法をつくるのは矛盾である。つまり形式としては、昭和20年8月に革命がおきた。そこで断絶した。そう考えないとおかしい。なるほど。鋭いこと考えるもんです。宮沢俊義だったかな。もし違っていたら失礼。
※ 荘園制なんかもそう。基本は地方が天皇に高い税を払いたくない。でも他のやつに侵略されるのはもっとイヤだから、土地の権力者の保護を求めて少し税を払う。中間権力者も同じ理屈でたとえば貴族にアタマを下げて少し税を払う。で、なんで貴族が偉そうにできるかといえば、天皇のそばにいるから。そもそも「天皇に払いたくない」から発したのに、「天皇の側近」に税を払う形をとる。非常に矛盾しているんです。こうして天皇が貧乏になる。