集英社★★★
中山道の名物に「お六櫛」というのがあるそうで、御嶽とか善光寺参りの土産として知られた。なんで「お六」なのかは諸説。いずれにしても歯の間隔が細密なもので0.5mm以下というべらぼうに細かい櫛です。毛梳き用。
で、このお六櫛をつくる職人とその娘の話。それも幕末ですね。なんか「夜明け前」みたいな感じです。ただし藤村は馬籠の本陣だったか脇本陣の話でしたが、お六櫛は薮原宿というところの貧乏職人の家です。
薮原宿は奈良井のひとつ西、馬籠なんかよりずーっと北になる。
で、そんな櫛職人の長女。台所仕事に興味はないが櫛作りに燃え、名人と信じる父を手伝い、できれば鋸ひいて生きたいと願っている。もちろん当時、ましてや信州の山の中の宿場です。年頃の娘が嫁にもいかないなんて許されないし、母親や妹の理解もない。
そんな変わった娘のところに、器用で口がうまくていい男で、おまけに才能がある、という優男があらわれる。こんな上質な櫛をおさめて対価がわずかな米だけというのはおかしい(※)。商売が下手すぎる。もう少し儲けましょうよ・・・。いろいろ動き出します。
なかなか面白かったです。この作品で中央公論文芸賞とか柴田錬三郎賞とか三賞を獲得したそうです。
※ こんな名人でも、毎日できあがった櫛をおさめての代価は多少の米(現物)だけ。仲介業者が強欲だし職人も無知。