「東京自叙伝」奥泉光

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toukyoujjo.jpg集英社★★★

死神の棋譜」「雪の階」の奥泉光です。この人もかなり振り幅がひろくて、読んでみるまでどんな内容か見当がつかない。「雪の階」は二・二六前夜だったし「死神の棋譜」は現代で魔の詰め将棋。ただしどっちも男女が旅したり、謎解きだったり、共通項はある。

「東京自叙伝」はガラリと違います。維新のあたりからずーっと時代をたどって最後は福イチまで。ひたすら一人称でしゃべりまくっているのは転生をくりかえす謎の男です。ん? 男だけではなくたまには女。転生といっても人間だけじゃない。犬にもなるしネズミにもなる。それどころか同時に複数の自分が存在したり、お互いが殺し合ったり。

ま、その時代々々、大事件の裏にはかならず自分がいる。あるときは陸軍の高級参謀。あるときは闇市の新興暴力団。またあるときはサリン事件、秋葉原殺人事件。ジュリアナ東京のお立ち台で初めてジュリ扇使ったのは自分です。

たとえば読買新聞の正刀を応援して原発計画を推進させたのも自分です。原子炉爆発の現場で作業していたのも自分です。想像するに「自分」はどうやら東京の地霊じゃないだろうか。とにかく東京が好き。東京が繁栄するのも好きだし破滅するのも興奮する。世の中、なるようにしかならないんだから責任なんてない。そもそものが「地霊」なんだし。

ひたすら饒舌です。