「漂砂のうたう」木内昇

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:

hyousanoutau.jpg集英社★★★

新選組 幕末の青嵐」「櫛挽道守」の木内昇ですが、これはまたガラリと雰囲気が違う。

時代はほぼ同じで明治初期。舞台は吉原ではなく少し格落ちの根津遊廓。店の「立番」として働いているのが定九郎。なんか怪しい名前で、ま、変名でしょうね。そのうち御家人の次男坊であることがわかる。ちなみに後半になって判明しますが、誇り高かった跡取りの兄は落ちぶれて人力車夫になっていた。しかも役にたたない車夫。

「立番」は見世(店)の受け付け係です。いわゆる牛太郎(妓夫太郎)。ただしNo.1の立番ではなく、No.2。しかもNo.1がやたら有能なんで、実はあまり役に立たない。このほかにも遣手(やりて)の婆さんとか、劣等感の固まりの下働きの男、看板の花形花魁やら、お茶ひいて蹴転(けころ)に落とされそうな下級花魁とか、ま、遊廓のいろいろが展開します。

そうそう。わけのわからない前座の噺家も出てきます。若くもない。才能もない。正体不明。最初のうちは実在ではなく幽霊かと思ってました。しかも円朝の弟子らしい。ほとんどの登場人物は希望なんてもっていません。みんな絶望し、屈折している。作者の表現では沈殿して漂っている。「漂砂」ですね。

とくに大きなストーリーはありません。主人公が特に格好いいわけでもない。ひたすら新時代の閉塞感とでもいうんでしょうか。安っぽい賭場をやっていた男は急に姿をくらます。たぶん西南の戦争に身を投じたんでしょう。売れない花魁は首を釣ろうとして失敗する。花形花魁は水に飛び込む。

ずーっと暗いです。モーローとしている。直木賞の受賞作らしいです。