KADOKAWA ★★★
吉野川の上流、片田舎の葉タバコ農家の子供。貧しくて尋常も2年くらいで上がるのがふつうで、あとはひたすらタバコ農作業。日清戦争もまだの時代です。
そんな子供が近くの町(?)に下りて、ガッチャンガッチャンとタバコを刻む機械を目にする。生まれて初めて見る「機械」です。ガーンと心を奪われてしまう。完全理系の子供が初めて動力で動くメカに遭遇したわけですね。
ま、なりゆきで子供は小さなタバコ刻み工場の職人になる。世事にはいっさい興味ないし、超不器用。関心はメカニズムだけです。必死で本を読み、知識を得る。そのうち電気についても知るようになり、さらにさらに感動する。ほかのことにはいっさい興味なし。
小さな田舎の工場から大阪の工場へ。さらにもっともっと大きな工場へ。少年(青年)はより多くの知識を得るために職場を移る。どんどんノウハウを獲得していく。朝起きてから寝るまで、電気のことしか考えない。効率のよい通信機をつくろうと心血を注ぐ。
こうなるとモデルは松下幸之助か、それとも・・と思ってしまう。きっと奮励努力して何か大発明するんだろうな、きっと。楽しい話になりそうだ。
途中、青年はニキビを無意識にかきむしるクセがあることがわかります。なんか違和感。周囲には「やめろ」と言われてるけど、本に夢中になっているとついやってしまう。したたった血が本をよごす。関係した店のちょっと可愛い女の子も登場。予想通り仲良くなりますが、あれ?? なんか違う。すぐに興味がなくなる。たまに会っても、横で暗い顔している女を無視してひたすら本を読みふける。オレの大切な時間を奪うな。邪魔をするな!
いろいろあって、青年は東京へ(※)。陸軍の下請け研究所。学歴をいつわって、がんばって通信機を開発する。抜擢されて、満州へ。関東軍の下で通信機開発。
こうして、どんどん流されていく。彼は自分のおかれた状況が見えない。アタマの中は「自分が開発した素晴らしい通信機」のことだけでいっぱい。輝かしい大発明だあ!
最後は暗転です。悲劇で終わる。木内昇という人「漂砂のうたう」もそうでした。ドラマがあって平凡な結末になるものは書かない人かもしれません。
※あははは。上京する際、女のことは完全に忘却。結果、なにも連絡しないで引越ししてしまった。ま、いいか。