「メルヘン誕生 向田邦子をさがして」高島俊男

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marchen.jpgいそっぷ社★★★

ちょっと違和感。高島さんがなんで向田作品論を書いたんだろ。

もちろん向田作品を嫌いだというわけではなくて、高く評価はしているらしい。しかし何故また? 銀座銀座百点の連載(後に「父の詫び状」)をはじめとして、数多くの随筆や小説をとりあげ、こまかく精査。かなり容赦ない視線です。

そもそも忙しい人であり、依頼を断らないのが信条だった。おまけに締め切りギリギリにならないと気がのらないタチ。そういうわけで、たぶん一気呵成に書いた。悪い言葉でいうと、書きなぐった。言葉のセンスは抜群。しかし、エッセイや小説の時代背景はかなりいいかげん。

背景をまじめに調べなおしてみる気がない。旧制高校と現代の高等学校を同一視する。年代を無視した出来事だったり流行だったりが頻出。いわばバブル時代のイケイケ女がスマホをもって遊んでるみたいな錯誤です。同じ随筆の中でさえも前提となる時代がズレてしまったり。たぶん注意を払う気がなかったんでしょうね。気にしない人だったのか。

脚本の場合、こうした設定が多少違ってもなんかとなります。途中でナオシが入る。演出でカバーする。直接読ませる小説ほど厳密ではない。それで悪いクセがついたのかもしれません。

また、同じような展開の小説が多すぎますね。スジが同じ。ストーリーの金太郎アメ化。とくに登場する男性キャラは画一的で、登場するサラリーンがみんなワンパターンの大卒。あの当時、そんなに大卒は多くなかったはずです。勤め人の肌感覚がゼロ。おまけに戦後まもないのに、なぜか軍隊経験者がまったく登場しない。不思議に時代感覚がズレている

向田さん、あんまり世間のオトコとつきあう(話をする。観察する。関心を持つ)ことがなかったのかもしれない。狭い社会で生きている。意外にモノを知らないのかも・・・。

などなど。きびしいです。いちばんの意外は「つましいサラリーマン」ということになっている向田家の父親。書かれた要素だけから見ても、実際にはかなり成功している社員だそうです。したがって、けっして貧しい家庭なんかではない。現実の保険会社ではそこそこ出世したサラリーマンであり、給料もかなり高かったはずです。そうすると大前提となっている家庭の雰囲気がなんか違ってくる。事実とは異なる。虚構。だから「メルヘン」という言葉になる。

高島さん、本当に向田作品を好きだったのかなぁ。執筆のキッカケ、経緯はいちおう書かれているものの、どこかで「ん? おかしいぞ。こりゃ違ってる」と生来の悪いムシが起きたのかもしれない。つい黙っていられなくなった。それがソモソモだったのかもしれない・・・という感じもします。邪推ですが、なんせ不正確とか間違いとか、大嫌いな人だったようだから。きびしく指摘しないとおさまらない。