イーストプレス★★★
先日亡くなった小田島隆が小説を書いていた。去年の6月刊のようです。
こうした小説には珍しく序文と後書きがついています。けっこう恥ずかしそうではあるものの、けっこう楽しかったらしい。自分に課していた「『本当のことを書く』という縛り」を解除している、とも書いています。
内容はショートストーリーとでもいうんでしょうか。東京23区をタイトルとした短い短編(変な言葉だけど)が連鎖しているような、いないようなあいまいな形で続く。
たとえば最初の「新宿区」で登場した少し可愛げのありそうなチンピラは、次の「江戸川区」で、同棲している女を正拳突きする。どこかの区では、たぶん野垂れ死にする。女もどこかの区で何かをする(何だったかは忘れた)。
関連しあってどんどん続くのかな・・と思っていると、いきなり切れます。違うストーリーになる。また、違う話になる。
基本的に小田島感覚の少年たち、男たちの話ですね。やる気が欠如していたり、どこか欠けていたり。人が嫌いだったり。登場の女はたいてい少し強気で独善で、こういう女性の話は今まで読んだことなかったかな。でもどこかで小田島が抱いていた女性像なんでしょうね、きっと。
乾いているけど叙情の世界です。後味が残る。ちょっと気のきいた掌編集。そうそう、東京に育った人間の郷土意識は半径五キロに限られるんだそうです。北区に生まれたなら板橋、豊島、文京の一部まで。いかにも小田島らしい分析です。事実、多摩地区の人間は隅田川の東のことはまったく知らない。葛飾区や江戸川区の住民は、三鷹や吉祥寺を山梨の近隣と思っている。
そうそう、23区だけでは足りなくなって、あとは適当に追加の数編が続きます。念のため。