早川書房★★
ムッソリーニがエチオピア侵攻。第二次大戦の少し前ですね。皇帝ハイレ・セラシエは頼りにしていた親衛隊(多少は近代装備だった)を毒ガス攻撃で全滅させられて英国へ亡命(※)。しかし抵抗戦を継続する一部の貴族たちは影武者の皇帝をしたてあげて国民を鼓舞、勇敢なアビシニアの女たちは古い銃をとって偽皇帝の護衛となった・・・・
いかにも面白そうなんです。しかし、面白くない。
なんなんですかね。メンギステはエチオピアの作家で、家族でも曾祖母だったかな、実際に銃を持って戦ったりした。男たちだけでなく、埋もれがちな女たちの戦いを描きたい・・と思い続けてきたらしい。
よく言えば詩的、おぼろなパステル画のような描写。登場人物の数は節約されたのかえらく少ないです。抵抗戦の先頭にたった貴族。誇り高いその妻。父からもらった古い銃に執着する少女。なに考えてるのかわからない料理女。19世紀の中隊みたいな規模のイタリア軍。ホラー映画の主役みたいな変質大佐。やけに豪華なアビシニア人の愛人(ただし隠れインテリでスパイ)、おどおどしたユダヤ人の私設カメラマン。
で、インディアン映画みたいな展開の戦いがあり、伏兵に戦車が壊され、いきなりジブリみたいなイタリア戦闘機が襲う。忍者みたいな集団が司令部(というか、大佐の宿舎)を襲う。わけわからんです。
はい。わからん小説でした。詩の心を持った愛国女流作家が妙にこだわって書いた小説ですね。デキの悪い少女マンガ。ストーリーや具体性を求めて読んではいけません。
※ ちなみに皇帝は国連(連盟です)などで理不尽を訴えたらしい。英仏は完全に無視した。エチオピア=蛮国という扱いだったんでしょうね。文明国イタリアが占領して何が悪い。
※ 結果的にエチオピアは、アフリカでは例外的に独立を保った。ただこの皇帝、優秀だったようですが頭が古く、政治的には旧弊そのもの。日本をまねた憲法を制定したけれども中身がともなわなかった。エチオピアはいまでも最貧国です。