中央公論社★★
単行本ではなく「永井路子歴史小説全集」です。第9巻。
前に読んだ直木賞受賞の「炎環」などに比べると、ぐっと通俗小説ふうです。現代的で読みやすい。軽い。あんまり必要なさそうなのに性愛の部分が強調されたり。読者サービスなんですかね(※)。
ま、それでも読んで損する本ではありません。あんまり覚えていませんが、毛利元就の妻を描いた「山霧」なんかと少し似た感じかな。あれもそこそこ面白かった。
えーと、この本の北条時政は赤鼻の陽気な武将です。騒がしいけれど、実はけっこう曲者。で、政子が信頼するのは兄の三郎(大河ドラマでは愛之助)。弟の義時は背が高くて無口で無愛想。でもけっこう思慮深いのかも。
妹(大河=宮沢エマ)は単純なおしゃべり娘。亭主の全成は目立たない人間。長男(頼家)はわがまま坊ちゃんで、つまりは比企の連中が悪い。母子関係は最悪。この頼家はかなり悪役設定なので、結果的に政子は「悪」ではなくなる。そうそう、頼家の妻(比企一族)とも政子はバキバキ心理戦です。あの女がいけないのよ。
ま、要するにわりあい平凡な妻であり、母であったという設定でしょうか。平凡な女なんですが、ときどきは大胆に行動する。なんせ板東の女です(※)。そうそう、頼朝寵愛・亀の前へのうわなり打ちですが、この本ではほんの少し。義経(菅田将暉)は絡まないし、柱を一本叩き折った程度。あんまり派手ではないです。
※藤沢周平でもそうですね。乾いた質のいい感じで読み続けていると、最後のほうで急にラブシーンがあったりチャンバラが挿入される。編集部からの注文だったのかな。作家もなかなか大変です。
※頼家が部下の女をかっさらった事件を素早く解決のあたりから、政子は存在感を増す。尼御前は怖いぞ、あなどれんぞ・・という評判になる。