中央公論社★★★
「永井路子歴史小説全集 5」です。こういう本があることは知っていましたが、いざ借り出してみると分厚い。だいたい800ページ。ずっしり重いです。久しぶりに本を読んだ気がします(※)
左大臣家の長女・倫子から話は始まります。姫君に文を届ける殿御はもちろん何人もいたようで、それは邸内の時折のざわつきから察せられるんですが、そのたびになぜか父母がゴソゴソ相談してお断り。あるいは父親がてんから却下してしまっている。あんな奴はだめだ! 高望みなのか、娘がひたすら可愛いのか。
これじゃ結婚できませんね。けっこうなトシになりかかって、それじゃ困る。で、なんだかんだ、ついに許されたのが右大臣家のボーッとした下の子、道長。もちろん大河ドラマみたいに、いきなり訪問はないです。きちんと了解はとれてます。
このほかの筋書きもだいたいは大河ドラマに近いですね。仲のいい姉の女院(詮子=吉田羊)はいろいろ尽力してくれて、おかげで倫子に婿入りもできたし、源明子とも結婚。この本の明子は「父の怨み・・」なんて怖いことは言いません。フワフワした浮世離れした美女。
で、道長はごく平凡な男です。長男の道隆は有能で美男子で酒好き。同母の兄道兼も頭がよくて野心家で(毛深いけど)鋭い。道長だけが何も考えずボーッとしている。そのボーッとした男が(生意気な甥っ子=伊周にたいする反発もあって)だんだん勉強する。人間の心理。心の裏。政界の泳ぎ方。
で、派手にやりすぎた道隆が糖尿で死に、道兼は七日関白。別にオレでなくても・・・と思っていた道長だけど女院が猛烈にプッシュしてくれて(なんと天皇の寝所までおしかけて徹夜で説得)、ついに一条帝が折れて母親の言い分をのんだ。
有能すぎない。野心もそれほどでもないし、自我が強すぎない。ま、バランスがとれている。ただしべらぼうに運がいい。なんせ兄が二人とも死んでくれた。気がついたらもう自分より上位の先輩はいない。それが道長というわけですね。
一応は小説ですが、それほどフィクションは盛り込まれていない印象です。ほぼ事実(というか日記記述から)の羅列。そんな歴史小説、政治小説です。
そうそう、雑感。一冊を通してやたらめったら「火事」が出てきますね。御所とか内裏の出火。ほとんどが放火でしょう。京に不満は渦巻いていた。で、政府は「困ったあ・・」とか「至急に建て直し」とは考えるけど、予防のため厳重警備を・・とはたぶん考えない。当時の警察力からして不可能だったんでしょうね。出火があったらあわてて消すのが精一杯。豊かな国司あたりから献金させて再建すればいいさ。
そんな役に立たない貴族たちだけで、よくまあ400年近くも政権が続いた。誰も「打倒しよう!」なんて考えなかったんでしょうね。とって替わろうという発想そのものがなかった(※)。不思議な国家、民族です。
※この半年ほど、なんか本が読めません。前回感想書いたのが4月23日。これが今年の4冊目です。あは。
※京に対する抵抗として思いつくのは「将門の乱」「純友の乱」「前九年・後三年」あたりでしょうか。最後が頼朝ですね。ただどれも「分離独立の試み」であって政権打倒が目的ではなかったような。