毎日新聞出版★★★
毎日新聞に連載をもっていたようで、その集録ですね、たぶん。原稿用紙で4~5枚。2010年ごろから2020年あたりかな。
エッセーや小論ばっかりなので、感想もバラバラですが、著者の本を何冊か読んでる人なら、あ、あの本の背景か・・と思う部分もあるはずです。
初見で面白かったのは、たとえば中井英夫の話。中井は1944年の入営組だそうですが、どこかで「何より驚かされるのは、私たちいわゆる戦中派の年代が(中略)、権力の命じるまま御両親様宛の手紙をしたため、従容として死についたと思われているらしいことで、僅か三十年も経たないのに、もうそんな歪んだ神話や英雄伝説が・・・」と書いている。
従容として、覚悟して死ねるわけないだろ、ということですか。同様、田中小実昌も「戦争に負けたことへのくやしさ、なさけなさというものは、上級の兵と初年兵ではウント違っていたはずだが、当時の初年兵にいまたずねたら、上級の兵だった者とあまりかわらないことを言のではないか」
小実昌ふうにトボけた書き方で、上級と初年兵で具体的にどう違うのか微妙なんですが、ま、なんとなく見当はつく。戦争の「記憶」ですね。記憶は変化する。すぐ忘れられる。
そうそう。面白かったのはプライベートな話。東大で学生たちにずーっと講義してきて、いちばんウケたのは「自分には友達がいないから」と話したときだそうです。みんな嬉しそうに笑ってくれた。大人がそんな恥ずかしいことを公言した、と思ったんじゃないか。
何よりも友達を大事にする。何かに歯向かったりケンカしたりはしない。孤立をなにより恐れる。若者はそうなってしまった。