中央公論社★★★
このところ永井路子の奈良ものを続けて読んで、いささか疲労というか飽きた感かあります。 藤原仲麻呂・鑑真の『氷輪』。その前が藤原不比等と蘇我系女帝の元明・元正の抗争『美貌の女帝』。ま、どちらも知らないことばかりで、その意味では面白かったんですが、でも地味です。
それは別として、もっと分厚いのが第5巻『この世をば』です。もちろん道長ですね。舞台は平安だし資料も多くて、エピソードもてんこ盛り。本のボリウムもすごいです。800ページはある。当然、読み終えてはいるんですが、不思議なことに記憶がない。ない。
あ、もちろん少しは覚えています。最初のほうの50ページくらいかな、左大臣家の長女・倫子のところにボーッとした右大臣家の三男坊道長が恋の歌を贈る。うーん、あんなやつはダメだ!と父親の左大臣がいやがる。ま、そのへんだけ。
しかしそのほかの部分、なぜか記憶がスッポリない。不思議です。ほんの半年前に読んだはずなのに・・・。
アホらしいとは承知ながら、また読みなおしてみました。800ページは重いです。膝の上においてもズッシリ。手が疲れてくる。自分で呆れながら、でもなんとか読破しました。初めて読むような気分です。
内容についてもここの感想と同じですね。違いがあるわけがない。で、再読したことを後悔はしていません。面白かったです。
あらためて納得したのは一条天皇と道長の間をせっせと往復した蔵人頭(くろうどのとう)藤原行成のこと(※)。この人の業績というか貢献度はすごかった。平安の政治はこうした優秀な秘書官役や皇太后クラスの女性の権威に負うところが多かったんだ、と永井さんは書いています。従来の研究書ではあまり重要視されてないけど、非常に重要。潤滑油。こうした急所の位置に有能な人がいないと、その政権はふるわない。すぐダメになる。
※蔵人頭。夜中だろうが朝だろうが「伝えよ」と指示あがればすぐ往復する。天皇だって、必要なら寝ないで待機している。平安のエリートたち、遊びも仕事も夜を苦にせずせっせとこなしていたんですね。周辺の女房たちも同様。夜更かしは平気だった。
この前読んだ田辺聖子の『むかしあけぼの』でも、やたら大殿油(おほとなぶら)という言葉が出てきました。灯台。明るかった。みんなせっせと活動していたということなんでしょうね。