白水社★★★
ウィンザー城の裏庭で犬どもが大騒ぎしている。静めに行った飼い主はそこに一台の移動図書館を発見。ま、礼儀として中に入っていちおうは話しかけ、なりゆきで本を一冊借り出す。とんでもなく退屈な本。侍従に返却させるつもりだったのに、これまた成り行きで翌週また移動図書館へ。こんども借りることになり、今度はえらく面白い。
ま、そんな経緯で80歳の女王は「本を読む」という楽しみを知ってしまう。
英国人とか、王室についての知識があるともっともっと面白いんでしょうね。作家の名前とか、評価とか。我々も知っている作家としては、たとえばプルースト。最初は「紅茶にケーキを浸すんですって。あんまりいい趣味とはいえないわね」と評価していた女王なのに、そのうちどっぷりはまる。指導役だった身分の低い書記(台所の下働きからひきあげてやった)と大部の『失われた時を求めて』について読書論を戦わす。
ま、いきなり女王から「最近は何を読んでいるの?」と聞かれた首相は焦るでしょうね、きっと。ジャン・ジュネの話を急に振られたフランス大統領は困惑してしまう。ジュネ? 誰だ。助けになりそうな文化大臣はどこへ行ったんだ・・・。
解説によると、英国の上流階級は知的であることをヨシとしないらしいです。評価しない。確かに。本が好きな貴族なんて、誰かいたか?
女王たちがニュージーランドからきた侍従をどう思うか。これもわからんです。インドは? アフリカは? あんまり長くはない本ですが、楽しく読めました。ま、主役の「女王」のキャラもありますが。
※慈悲深く穏やかな君主ではありますが、騙されることは好きではない。ひそかに読書の邪魔をたくらんだ侍従はあっさクビです。